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2006年6月 4日 (日)

「IT嫌いはまだ早い」2005年8月号

月刊「Windows Server World」(http://www.windows-world.jp/) 連載の「IT嫌いはまだ早い」より

編集作業が入る前の原稿なので、出版されたものとはタイトルを含め、内容が若干違います。

拡大版「新人研修裏話」

筆者の本業はITトレーナである。今月は拡大版ということで、過去の研修で経験した話を紹介しよう。なお、かなりの脚色を加えたおり、そのままのことが起きたのではないことをお断りしておく。

ITトレーニング裏話

本誌が発売される頃には、新人研修もほとんど終わっているだろう。季節はずれではあるが、今月は新人研修の話題を取り上げる。実は、この時期は来年の新人研修について考えるのにちょうど良い時期である。もう少しすると、入社前研修があったり、具合的な教育カリキュラムの構成をしなければならなかったり、結構忙しくなってくるからである。

さて、筆者の会社では多くの会社の新人研修を昔から請け負っており、話題には事欠かない。連載第1回にも書いたが、新人研修は結構体力を必要とする。楽しいことも多いが、ちょっと予想しなかった言動があったり、戸惑うこともある。面白そうなエピソードをいくつか紹介しよう。なお、しつこいようだが、内容はかなり脚色しているので、そのつもりで読んで欲しい。

本誌をお読みの方で、来春就職予定の人もいらっしゃるだろう。また、新卒の社員を受け入れる立場の方もいらっしゃるかもしれない。何かの参考になれば幸いである。

●オリエンテーション

毎年、オリエンテーションとオリエンテーリングを混同する人がいる。講習の案内には地図もコンパスも不要である。元々「オリエント」は「東方」という意味であり(「オリエンタルインドカレー」のオリエントと同じ)、本来は「昇る太陽」という意味だったらしい。そこから、「基準となる方角」という意味が派生し、「地図とコンパスで正しい経路をたどる競技」=「オリエンテーリング」や、「新入者のための案内」=「オリエンテーション」となったのである。

なぜか、アナログとアナクロを間違える人も多い。「コンピュータ入門」の最初はデジタルとアナログの違いから始まる。アナログは「相似形」という意味であり、デジタルは「指折り数える」という意味である。そこから連続量と離散量という意味になった。一方アナクロは「アナクロニズム」の略であり、ギリシャ語の「時間(クロノス)に逆行(アナ)する」から「時代錯誤」の意味になった。クロノメータ(公式検定を受けた高精度の時計)やクロニクル(年代記)もクロノスが語源である。

似た言葉の意味を取り違えるのは、かなり恥ずかしいことなので注意したい。

●自己紹介

講習に入る前には、自己紹介をしてもらうことが多い。学生時代の専攻分野や興味のあることを教えてもらうことで、講義の技術レベルを微調整し、適切なたとえ話を取り入れるためだ。ところが、何を思ったか好きなアイドルや好きな食べ物の話をする人がいる。

通常、講師が自己紹介をお願いした場合は、自己紹介の趣旨と、言うべきことを指示する。だから、妙な自己紹介が始まってしまうのは、講師の責任である。ただ、ここで言い訳をさせてもらうと、まれに、見えない力が働いて、講師の力の及ばないところで自己紹介が始まってしまうこともあるのだ。なかなか難しいものである。

●質問

自己紹介が終わったら実際の講習が始まる。新人研修では、ほとんどの受講生が熱心に受講しており質問も多い。たいていの講師がそうだと思うが、質問が多いとやる気が出る。もちろん、受講生によって講義の質が変わることはないが、気分が違う。みなさんも、もし講習の類を受講する機会があれば、どんどん質問して欲しい。

新人研修での質問で一番気持ちがいいのは「初歩的な質問ですが」とか「基本的な内容ですが」という前置きがないことだ。新人研修の内容が初歩的で基本的なことは当然だから断るまでもないということか。

そもそも「初歩的な質問ですが」と前置きをする人は何を考えているのだろう。もし、その質問が初歩的だと思うのなら、その根拠を問いたい。根拠があって初歩的だというのなら、おそらく質問に対する回答も自力で得られるはずだ。自分が初歩的だと思っているだけなら、そんな前置きはいらない。

実は、ほとんどの場合、初歩的だと思っている質問はかなり高度な内容を含む。もし「初歩的な質問ですが」と前置きをして、講師が答えられなかったら「講師は初歩的な質問に答えられない」と思われてしまう。講師本人はそれでもいいのだが、クラスの雰囲気が悪くなってしまうと少々困る。講師をいじめたいとき以外は「初歩的な質問ですが」を使うのは控えていただけると助かる。

●居眠り

どんな講習でもそうだが、たまには居眠りをする人がいる。途中で休憩が入るとはいえ、9時から5時までの講義はかなりつらいだろう。考えてみれば、大学の授業はそれほど連続していないことが多いし、高校までの授業は3時半頃には終わる。寝てしまうのも無理はない面もある。

講師にも責任がある。受講生は、高いモチベーションを持って講習に臨んでいるのに、講師が十分に応えられず、つまらなくなってしまうケースがあるからだ。新人研修では、講習で得られた結果を実際にどう活用できるのかイメージできない場合が多い。場合によっては配属も決まっていない状態で、実際の業務をイメージしろと言う方が無理である。これでは退屈に感じてしまうのも仕方ない。現在学習している内容がどのように役立つのかをイメージさせるのは講師の仕事である。

IT業界には、一般的なイメージと違う職種もある。営業職などはその典型だ。先月号でも触れたとおり、コンピュータは「何を買う」よりも「何のために買う」方が重要だ。従来型の営業職の典型は「御用聞き」であり、営業は「何を買うのか」を尋ねるだけで済んだ。しかし、IT業界では「何のために買うか」を尋ねないと、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせが決まらない。そのためにはITで何ができて何ができないかを知っておかなければならない。もっとも最近では、IT業界以外でもこうした風潮が広がっており、多くの業界で営業職に対する専門教育が施されているようだ。続に「コンサルティング営業」とか「ソリューション営業」というのがそれだ。「コンサルティング」と「ソリューション」は、IT業界からスタートし、いまや全業界、全職種の共通のキーワードとなっているようである。早いうちに考え方を身に付けて欲しい。

●試験

講習が終わったら確認テストを行う。ここで、必要以上に緊張するのが新入社員である。長年の習慣は抜けないようだ。試験の点数が悪いと、受講生は落ち込むが、講師も落ち込む。講義中の態度から、よく理解していると思っていた人が意外に低い得点だったりすると、特に落ち込む。講義が悪かったのか、あるいは試験問題が悪かったのか、と悩み反省するのだ。

多くの場合、講師は教育コースごとに報告書を作成する。受講生の評価は試験の成績と講師の報告書、そして後述する受講日誌で行われる。講義中の言動から予測される修得度と、試験の成績が大きく食い違う場合、その理由を推定し、報告書に記載しなければならない。そうでなければ、受講生が不当に評価されてしまう。可能であれば本人と直接話をして、原因を推定し、フォローをしなければならない。面倒であるが、必要なことである。

●アンケート

新人研修では、受講生のやる気が高い分、厳しい評価をいただくことも多い。アンケートに「つまらない冗談は言わなくてよい」と書かれるくらいは序の口である(1回参照)。以下、厳しいコメントの例である。

「もう少し分かるように説明した方がいいと思います」

「何を言っているのかさっぱり分からない」

悪いのは筆者だが、もう少し書き方を工夫していただいた方がよいのではないでしょうか。

「休憩は1時間に1回取るべきだ」

90分休憩なしに講義をしたときのアンケート結果である。別の講師も同じことを言われたらしい。そこで「でも、大学では1コマ90分の講義だったでしょ」と尋ねると「いえ、先生は講義の途中で1回休憩を入れていました」と言われたとか。どんな大学なのだろう。

なお、ここで言う「アンケート」は、筆者ら講師の対応を含めた教育内容の品質向上のためのものであって、受講生の会社を含め、特に必要がない限り社外には渡さない。

●研修日誌: 文章に注意

新人研修では、受講生に研修日誌を書かせる場合が多い。研修日誌は、単なる日記ではなく、人事担当者が受講生を評価するための書類となる。先のアンケートと異なり、ほとんどの場合、コピーされて配属先のマネージャなどに回覧される。このことは最初に説明するのだが、どうも日記と思って書いてしまう人が多い。

「プロセスについては、いまいちよく分かりませんでした」

正式な報告書に「いまいち」というのは不適切だと指摘したら、翌日は「今ひとつ」に変わっていた。理解度も「いまいち」なようだ。学校教育、特に義務教育では報告書を書くことがあまりないため、慣れないのは分かるが、新聞を読んでいればどういう言葉遣いをすればいいのかは分かりそうなものである。

「分からなかったところを頑張って勉強したい」

心がけは立派だが、具体的な方法が書いてない。講習中に分からなかったのであれば、講習テキストを読み直して分かることは少ない。参考書を探すのであれば、どの参考書を選ぶのか、その基準が知りたいはずだ。世の中には「悪い参考書」というものもあるので、余計心配になる。講師に質問するのであれば、いつするのか。そもそも講習終了後の質問が可能なのかも調べる必要がある。

「講師の説明が悪いので理解できなかった」

先のアンケートと同様の内容であるが、アンケートではなく報告書に書いてくるのがポイントである。口の悪い人の印象が悪くなるように、あまりきつい言葉を使うと、本人の印象が悪くなってしまう。損をするのは自分自身なのだ。このことは、新人でなくても理解していない人がいる。たとえば、取引業者を怒鳴りつけるような人もいるようだが、そんなことをしても何の得にもならない。ビジネスは最終的に損得勘定で動くので、得にならないことはしない方がよい。実際に叱責するときは、感情を出さず事実だけを列挙する方が効果的である。講師の説明が悪いと思うのなら、具体的にどの部分の説明がどう悪かったのかを書いていただくと、こちらも助かるし、報告書を読む人も「こいつはデキルやつだ」と思うだろう。

新人に限らず、事実を列挙して状況を説明するのを苦手としている人は多いようだ。たとえば、筆者の友人が雑誌編集部にいた頃の話である。あるライターの記事原稿に「普通の酒屋」という言葉があったという。普通の酒屋とは何だ。家族でやっているのか、家族は何人か、開店して何年になる店なのか、店員を雇っているのか、広さはどれくらいか、店頭に自動販売機はあったか、あったら自動販売機のビールの銘柄は何か、などと次々に尋ねたら、どれも「覚えていません」「分かりません」だったという。

適切な説明文を書く技術は職種によらずビジネスに必須のスキルである。説明文のスキルを修得するには、新聞を読むのがいいと思う。良質のプレスリリースも参考になるが、中には悪文もあるので注意したい。音楽を聴かない作曲家がいないように、多くの文章を読まずして良い文章は書けない。ぜひ多くの文章を読んで欲しい。

ついでなので簡単な演習問題をやってみよう。

Windows Server Worldについて説明しなさい」

筆者なら、こういう視点で書く。

     創刊号の発行年月や名称の変遷などの歴史とその理由

     発行部数

     発行の目的

     主な記事内容

     主な広告主

     主な読者層

     以上の要素について競合他誌との比較

「面白い」とか「役に立つ」とか、そういう表現は、著者や編集者は喜ぶだろうが、説明文としての価値はあまりない。

●研修日誌: 自己評価

研修日誌には、その日の講義の理解度を自己評価する項目もある。自己評価の経験があまりないせいか、必要以上に低く付ける人が多い。人事担当者は自己評価をそのまま信じてしまう。謙遜は日本人の美徳だが、場合によっては不適切である。実際以上に良く評価すると、あとでばれたときに困るし、悪く評価すると自分の評価が下がる。適切に自己評価する練習もしておいた方が良いだろう。

最近は「パフォーマンスレビュー」と言って、1年間の実績を自己アピールさせる会社も増えてきた。自分で自分を適切に評価して、上司にアピールする力が重要になる。

パフォーマンスレビューでは、年初に目標と評価基準を設定し、年末にその評価を行うのが一般的である。評価にぶれが出ないよう、評価基準は具体的かつ定量的なものが望ましい。達成率を向上させるために、評価基準を下げると「楽をしようとしている」と思われるし、評価基準を上げると自分が苦労する。ここでも「適切なレベル」というものが重要になる。

日本の会社は終身雇用制と言われるが、技術者も終身雇用に近い状態になったのは実は戦後らしい。もちろん、現在では終身雇用制は崩壊している。実際に転職するかどうかは別にして、転職を考えない技術者などいないだろう。現在、会社と社員は対等の関係であり「これだけ働くからこれだけの給与をよこせ」という交渉をするくらいの心構えが必要だ。客観的な自己評価は会社との交渉にも有利である。ぜひ身に付けたい。

●休憩時間

新人研修は、長期間に及ぶため、受講生同士が仲良くなる。もちろん、それは結構なことだが、休憩コーナーに集まり大声で談笑されると他の人の迷惑になる。もっとも、これは新人研修に限らない。昔、中国のプラントを設計した重工メーカーの依頼で、中国人向けの研修を大阪で1か月ほど実施したことがある。プラントの制御用コンピュータが、当時筆者の勤めていた会社のコンピュータだったのだ。このとき、他の受講生から「ロビーでの私語がうるさい」というクレームが付いた。四声という独特の高低(声調)を持つ中国語が耳障りだったのだろう。なお、同じように声調を持つ関西弁も、東京ではクレームの対象になるので注意して欲しい。ちなみに、関西弁では「気」「木」「キー」はすべて文字にすると「きぃ」だが、それぞれ中国語でいう第一声、第二声、第四声に相当する発音になる。確かに声調である。

念のため断っておくが、筆者は中国人にも関西人にも特別な偏見はない。中国人の友達もいるし筆者自身が関西人である。昔、北京で京劇を見たが、中国語はその声調によって、そのままで音楽のようにも聞こえる素晴らしい言語だと思う。ただ、しゃべり方によってはうるさく聞こえる状況が起きやすいのも確かである。

●残業

筆者の会社では、新入社員研修専門の特別なカリキュラムがある。このカリキュラムでは、最後に受講生数人でチームを作り総合演習を行う。開発者やSEとして採用された場合の研修であれば、顧客にインタビューして業務の問題点を分析し、必要なプログラムを設計したあと、実際に作成して納品するという手順をシミュレーションする。営業職なら、顧客にインタビューし、最適な製品を組み合わせて提案書を披露することになる。

インタビューは、受講生各チームの代表が顧客の役割を演じる講師に対して行う。講師は、時に重要な情報を言わない場合もある。実際にそういうことはよくあるからだ。別に意地悪をしているわけではなく、顧客はあまりに当たり前のことと感じているので、聞かれない限り伝える必然性を感じないのである。

インタビューが終わったらプログラムの作成に入る。以前は「何時まで残してもいいからとにかく終わるまでやらせてくれ」という会社が多かった。根性を養うためだろうか。夜の910時は当たり前で、当然講師も最後まで付き合っていた。しかし、実際のプロジェクトでは残業時間はプロジェクトのコストに響くので、ある程度制限する必要がある。最近では、時間内にできない場合は顧客(ここでは講師)と相談して、仕様を変更することが許されるようになった。

新入社員は、この辺でちょっと戸惑うらしい。学生時代、レポートの提出期限を延ばしてもらった経験はあっても、課題を変更してもらった人はいないからだ。実際のプロジェクトでは、機能、費用、納期のうちどれを変更しても構わないが、新人研修では納期は決まっているし、残業が制限されているので費用も増やせない。もちろんプロジェクトのメンバーを増やすことなど絶対にできない。そうすると機能を削るしか方法がない。

意外に思うかもしれないが、プロフェッショナルというのは「高い品質」が重要なのではない。「価格に見合った一定の品質の製品を期日通りに納めること」が重要なのである。「プロの写真家」を思い浮かべて欲しい。彼(彼女)らは、一定のレベルの作品を納期に合わせて製作する。筆者も趣味で自宅のネコの写真を撮る。たまには良い写真も撮れる。しかし、アマチュアの筆者にとっては、良い写真が撮れるのは偶然である。「カレンダー用の写真を8月末までに12枚」と言われても無理である。

話はそれるが、レオナルド・ダ・ビンチはパトロンの評判が悪かったそうだ。興味の対象が次々と変わるため、依頼された作品が未完のまま次の作品に取りかかってしまうからだという。ダ・ビンチは技術者としての面も持っているが、本質は良くも悪くも芸術家だったのだろう。

ところで誰が広めたのか「米国人はあまり残業しない」という噂がある。とんでもないことである。法律的なことはよく分からないが、米国では専門職の場合「勤務時間」という概念がそもそも希薄である。残業という概念がないので、いくら長時間働いても給与は変わらない。ほとんどの人は朝7時から8時の間に出社し、深夜まで働く(こともある)。日本とちょっと違うのは、同じ仕事をする場合は勤務時間が短い方が高く評価されることだろう。そのため、集中するときは週末も含めて112時間以上働くが、休むときは休む。筆者も見習って、毎年長期の休暇を取るようにしているが、日々の勤務時間はあまり減らない。これでも努力して早く帰るようにしているのだが、午後8時以前に帰ることは少ない。

残業が多いのは、自分の能力が低いからであって、恥ずかしく思うべきである。また、仕事の期限を守らないことは、取引先に残業を強いることを理解しておくべきである。残業が多いことが、自分の能力の問題ではないと思うのであれば、上司に言って仕事を調整してもらうべきである、というのが米国流の考え方だ。米国人の仕事のやり方にはよい点も悪い点もあると思うが、残業に関しては合理的だと思う。

●モチベーション

ところで、新人研修の目的とは何だろう。通常筆者が担当する社会人研修の場合は、まず業務上の目標があり、その目標を達成するための手段として、知識を付ける必要があり、知識を付ける方法の1つとして教育コースの受講がある。そのため、受講者は強い目的意識を持つのが普通である。一方、新人研修は、ばらばらなITスキルを一定のレベルにそろえるのが主な目的である。初心者向けの内容からスタートするため、ある程度の知識を持っている人には退屈する面もあるだろう。

それでも、ほとんどの新入社員諸君は、高いモチベーションを維持してくれる。おそらく、学校の授業はこれほど熱心聞いていないだろう。学校も会社も自分の意志で選んだことに違いはないだろうに、不思議なことである。実は、入りたい大学ではなく、入れる大学を選んだだけなのだろうか。筆者は、この秋に母校の大学で特別講義を2コマ担当することになっている。後輩の紹介なのだが「最近の学生は手強いですよ」と今から脅されている。授業中の私語はもちろん、最近では携帯電話でのメールが加わり、ますます集中しないらしい。授業料がもったいないと思わないのだろうか。

ただし、社会人研修でも、まれにモチベーションの低い人がいる。配置転換(いわゆるリストラ)で、不本意な部署に配置された人である。考えようによっては、リストラされた部署というのは、今後の展開が望めないわけで、将来性のある部署に異動できて良かったと思うのだが、ふてくされたような人もごくまれにいる。ダブルクリックのできない人のいるクラスを担当したときは筆者も辛かった。確かに、ダブルクリックは慣れないと難しいので、受講生を責める気持ちはないが、かなり大変だろうなとは思う。

●飲み会

新人研修も数週間続くと、自然と飲み会が企画されるようになる。同期入社の社員は貴重な財産なので、なるべくこうした飲み会には参加した方がいいと思う。同じ部署だと仕事上の相談もしやすい。別の部署だと、将来、さまざまな根回しや非公式な情報収集に役立つ。友人は損得で作るものではないが、必要なとき力になってくれるのは友人である。

ただし、講師の女性をナンパするのはやめて欲しい(今のところ男性がナンパされた話は聞かない)。受講生と講師は対等の関係ではない。受講生のバックには所属会社があり、講師の所属会社の顧客である。「何様のつもりだ」と思ったら「お客様」だった。対等の関係ではない状態で関係を迫るのはセクハラである。筆者の会社には暗黙の習慣があって「特定少数で主催される飲み会には原則として参加しない」「受講生全員を対象とした飲み会に参加するのは自由である(強制ではない)」ということになっている。これは不要なトラブルを防止する良いガイドラインだと思う。

米国でも、イベントがあれば必ずパーティがある。月曜から金曜日までの講習会があれば、たいてい木曜に開催される。金曜日は早々に帰ってしまう人が多いからだ。ただし、同僚と会社の帰りに飲みに行く習慣はあまりないらしい。多くの人が自家用車で通勤しているので、酒を飲んで帰ることができないからだ。ただ、ニューヨークなど、一部の都会では「会社帰りに一杯」ということもあるようだ。

米国とは違い、イギリスは「会社帰りに一杯」がよくあるらしい。「パブ」と呼ばれるバーでビールを飲みながら粘るという。ずっと前、筆者がイギリスの友人を訪ねたときも毎日パブで飲んでいた。メニューはビールが数種類、ウィスキー、サイダー(発泡性リンゴ酒)くらいで食べ物はほとんどない場合が多い。ポテトチップの袋がおいてあるくらいだ。ちなみに筆者は「チーズ&オニオン」というポテトチップが気に入ったが、日本では見たことがない。残念。

パブは注文時の現金精算が基本なので「4人で行けば4軒回ることになる」と、かつてのBBCラジオの日本語放送で言っていた。1軒目は「オレが買ってくる」と全員分を購入する。飲み終わると「じゃあ、次行こう」と別の店で「今度はオレが」となる。結局、人数分の店を回ることになるらしい。「はしご酒」というわけだ。帰る頃には千鳥足なので、これを「パブ・ロール」と呼ぶとか。

●成果発表会

新人研修の総まとめは、成果発表会である。場合によっては取締役クラスの人も出席する。受講生はもちろん、講師も自分の力量が評価されるため緊張する。自分たちのグループの発表が終わると、感極まって泣き出す人もいるくらいだ。

ほとんどの場合、新人研修にはプレゼンテーションのコースが含まれる。プレゼンテーションは現在のビジネスで最も重要なスキルだからだ。実は、プレゼンテーションのレベルを最低限のレベルまで引き上げるのはそれほど難しくない。基本的な講習を受け、練習を繰り返し、他の人からのフィードバックをもらえば確実に向上する。

社長を前に「この部分の完成度はいまいちです」などと、相変わらず不適切な語を使ってしまう人もいるが、おおむね立派なプレゼンテーションをする。その姿を見て泣いた講師も多数いる。受講生も講師も涙を流し、新人研修は大団円を迎えるのである。

本当は、これからが大変なのだけどね。がんばれ。

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