【写真】「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン~東洋と西洋のまなざし」展(東京都写真美術館)
1月2日は無料だったようですが、1月3日もお正月割引がありました。
「木村伊兵衛賞」に名を残す木村伊兵衛と、「マグナム・フォト」の創設メンバーである「アンリ・カルティエ=ブレッソン」の展示会。
企画した学芸員の金子さんが命名したサブタイトルは「相似と相異」、「東洋と西洋」よりもこの方がいいと思うんですが。
16:00のレクチャーに合わせて行ったので、いろいろ面白い話が聞けました。
以下、そのときのメモなのでちょっと長いです。
●カメラと写真
木村・ブレッソンに共通なのは「レンジファインダー」カメラ。
ブレッソンはすべてライカ、木村はニコンSなども使ったようです。
ライカは、世界で初めて手持ち撮影と連続撮影を実現したカメラで、「スナップショット」「瞬間を切り取る」という作業はここから始まったとか。
これを金子さんは「近代的写真表現」とおっしゃってました。
ライカは、ウエストレベルでの撮影からアイレベルでの撮影というスタイルの変化を生み出しています。
そして「今は、カメラと目が近接するスタイルから、カメラと目を話すスタイルに変化する過渡期であり、ライカ登場時と同じくらい大きな転換期にある」と金子さんは主張されていました。
木村は一眼レフも使ったようですが、撮った瞬間にブラックアウトすることを嫌ったそうです。
ちなみに「ライカ」は「ライツ社のカメラ」で、当初は会社名ではなく製品のことでした。
●ポートレートと猥談
木村伊兵衛もブレッソンも、スナップ写真が有名ですが、ポートレートも結構撮ったとか。
そして、木村伊兵衛の女性ポートレートが実に色っぽい。
なんでも、木村は猥談が好きで、それが女性に大人気だったそうです。
「女性が聞きたくなるような猥談ができたら、そりゃモテたでしょう、私もそうなりたい」というのは金子さんの弁。
ただし、ヌード写真は撮っていないとか。
例外が銭湯とストリップ小屋の2枚。
それを見た人は「木村はヌードは撮らなくてよろしい」と言ったとか。
スナップ写真としてのヌードだったんでしょうね。
●決定的瞬間
ブレッソンで有名なのは「決定的瞬間」ですが、これは英語版でのタイトル「The Decisive Moment」の訳で、フランス語版は「逃げ去る映像(Image à la sauvette)」なんだそうです。
ただし「決定的瞬間」の意味は、アクションを意味するわけではなく視点が転換する瞬間を意味するとか。
ブレッソンはシュールリアリズム画家との親交も深かったそうです。
これは私の想像ですが、たとえばマグリットの「これはパイプではない」に通じるものかも知れません。
絵に描いたパイプを見て、人はそれを「パイプ」と認識しますが、「これはパイプではない」というタイトルを見て「そうだ、これはパイプではなく絵なんだ」と認識する瞬間が「決定的瞬間」なのではないかな、と。
●作風の違い
ブレッソンが、緻密に考えられた構図なのに対して、木村はちょっと外しているものが多い。
言われてみると確かにそうで、ブレッソンは背景となる人工物の配置がきっちり計算されている緻密さがあります。
それに対して木村は自然というかいい加減な感じです。
パンフレットにもなっている「本郷森川町」という作品も、有名な方は結構「決まった」構図なのに対して、アサヒカメラで発表されたのはその前のカット(コンタクトプリントから分かる)。
こちらは真ん中ががらんと空いていて、ちょっと不思議な構図になっています。
しかし、「写真は引き算の芸術」と言いながら、木村もブレッソンも実に多くの要素を画面に入れています。
コンタクトプリントを見ると、前後のカットよりも作品として採用されたカットの方が要素が多いくらいです。
室内ネコがポートレートだとしたら、屋外ネコはスナップ写真。
屋外ネコの方が圧倒的に難しいのは、画面に入る要素を加算していかないといけないからなんでしょうね。
逆に、室内ネコは余分な物を排除していく引き算が必要です。
●コンタクトプリント
今回の展示の目玉がこれ。
木村のコンタクトプリントは、遺族の協力である程度あったそうですが、ブレッソンのコンタクトプリントは日本初公開だそうです。
金子さんの話では「おそらく出版社が横流ししたのだろう」ということです。
明らかな失敗カットもわずかにあって親しみを覚えます。
段階露出をしたカットももちろんあるんですが、たいてい2コマ。
3コマの段階露出は意外に少ない。
今でもプロの人は「迷うのは自動露出の値が明るすぎる可能性があるか、暗すぎる可能性があるかの2者択一で、自動露出値の前後両方の値が欲しいことはほとんどない」と言いますから当然なんでしょうが。
それから気付いたのは、木村が縦位置で構えるとき、シャッターボタンを上にするか下にするか決めていなかったこと。
数カットしか離れていないのに2種類の構え方が混在しています。
ブレッソンの方はすべてシャッターボタンが下。
脇が開くとぶれやすいからでしょう。
●トリミング
1970年くらい以降のブレッソンの作品は、すべて黒い縁取りが付いています。
これはトリミングをしていない証拠なんだそうです。
以下、私の補足ですので間違っていたらごめんなさい。
ネガフィルムの場合、写真が写っていない周囲は透明になり、そのまま焼くと黒くなります。
トリミングする場合はトリミングしたい場所を覆って光を遮るため、縁は黒ではなく白くなります。
つまり、黒い縁はネガの縁がそのまま焼かれた状態であり、トリミングしていない証拠になります。
●その他
露出アンダーと露出オーバーの2コマを重ね合わせてダイナミックレンジを拡大する手法があったそうです。
今のハイダイナミックレンジと同じ手法です。
木村はこれを何度か試みたそうですが、現存していないそうです。
●資料
http:// sankei. jp.msn. com/cul ture/ar ts/0912 23/art0 9122308 46001-n 1.htm
「木村伊兵衛賞」に名を残す木村伊兵衛と、「マグナム・フォト」の創設メンバーである「アンリ・カルティエ=ブレッソン」の展示会。
企画した学芸員の金子さんが命名したサブタイトルは「相似と相異」、「東洋と西洋」よりもこの方がいいと思うんですが。
16:00のレクチャーに合わせて行ったので、いろいろ面白い話が聞けました。
以下、そのときのメモなのでちょっと長いです。
●カメラと写真
木村・ブレッソンに共通なのは「レンジファインダー」カメラ。
ブレッソンはすべてライカ、木村はニコンSなども使ったようです。
ライカは、世界で初めて手持ち撮影と連続撮影を実現したカメラで、「スナップショット」「瞬間を切り取る」という作業はここから始まったとか。
これを金子さんは「近代的写真表現」とおっしゃってました。
ライカは、ウエストレベルでの撮影からアイレベルでの撮影というスタイルの変化を生み出しています。
そして「今は、カメラと目が近接するスタイルから、カメラと目を話すスタイルに変化する過渡期であり、ライカ登場時と同じくらい大きな転換期にある」と金子さんは主張されていました。
木村は一眼レフも使ったようですが、撮った瞬間にブラックアウトすることを嫌ったそうです。
ちなみに「ライカ」は「ライツ社のカメラ」で、当初は会社名ではなく製品のことでした。
●ポートレートと猥談
木村伊兵衛もブレッソンも、スナップ写真が有名ですが、ポートレートも結構撮ったとか。
そして、木村伊兵衛の女性ポートレートが実に色っぽい。
なんでも、木村は猥談が好きで、それが女性に大人気だったそうです。
「女性が聞きたくなるような猥談ができたら、そりゃモテたでしょう、私もそうなりたい」というのは金子さんの弁。
ただし、ヌード写真は撮っていないとか。
例外が銭湯とストリップ小屋の2枚。
それを見た人は「木村はヌードは撮らなくてよろしい」と言ったとか。
スナップ写真としてのヌードだったんでしょうね。
●決定的瞬間
ブレッソンで有名なのは「決定的瞬間」ですが、これは英語版でのタイトル「The Decisive Moment」の訳で、フランス語版は「逃げ去る映像(Image à la sauvette)」なんだそうです。
ただし「決定的瞬間」の意味は、アクションを意味するわけではなく視点が転換する瞬間を意味するとか。
ブレッソンはシュールリアリズム画家との親交も深かったそうです。
これは私の想像ですが、たとえばマグリットの「これはパイプではない」に通じるものかも知れません。
絵に描いたパイプを見て、人はそれを「パイプ」と認識しますが、「これはパイプではない」というタイトルを見て「そうだ、これはパイプではなく絵なんだ」と認識する瞬間が「決定的瞬間」なのではないかな、と。
●作風の違い
ブレッソンが、緻密に考えられた構図なのに対して、木村はちょっと外しているものが多い。
言われてみると確かにそうで、ブレッソンは背景となる人工物の配置がきっちり計算されている緻密さがあります。
それに対して木村は自然というかいい加減な感じです。
パンフレットにもなっている「本郷森川町」という作品も、有名な方は結構「決まった」構図なのに対して、アサヒカメラで発表されたのはその前のカット(コンタクトプリントから分かる)。
こちらは真ん中ががらんと空いていて、ちょっと不思議な構図になっています。
しかし、「写真は引き算の芸術」と言いながら、木村もブレッソンも実に多くの要素を画面に入れています。
コンタクトプリントを見ると、前後のカットよりも作品として採用されたカットの方が要素が多いくらいです。
室内ネコがポートレートだとしたら、屋外ネコはスナップ写真。
屋外ネコの方が圧倒的に難しいのは、画面に入る要素を加算していかないといけないからなんでしょうね。
逆に、室内ネコは余分な物を排除していく引き算が必要です。
●コンタクトプリント
今回の展示の目玉がこれ。
木村のコンタクトプリントは、遺族の協力である程度あったそうですが、ブレッソンのコンタクトプリントは日本初公開だそうです。
金子さんの話では「おそらく出版社が横流ししたのだろう」ということです。
明らかな失敗カットもわずかにあって親しみを覚えます。
段階露出をしたカットももちろんあるんですが、たいてい2コマ。
3コマの段階露出は意外に少ない。
今でもプロの人は「迷うのは自動露出の値が明るすぎる可能性があるか、暗すぎる可能性があるかの2者択一で、自動露出値の前後両方の値が欲しいことはほとんどない」と言いますから当然なんでしょうが。
それから気付いたのは、木村が縦位置で構えるとき、シャッターボタンを上にするか下にするか決めていなかったこと。
数カットしか離れていないのに2種類の構え方が混在しています。
ブレッソンの方はすべてシャッターボタンが下。
脇が開くとぶれやすいからでしょう。
●トリミング
1970年くらい以降のブレッソンの作品は、すべて黒い縁取りが付いています。
これはトリミングをしていない証拠なんだそうです。
以下、私の補足ですので間違っていたらごめんなさい。
ネガフィルムの場合、写真が写っていない周囲は透明になり、そのまま焼くと黒くなります。
トリミングする場合はトリミングしたい場所を覆って光を遮るため、縁は黒ではなく白くなります。
つまり、黒い縁はネガの縁がそのまま焼かれた状態であり、トリミングしていない証拠になります。
●その他
露出アンダーと露出オーバーの2コマを重ね合わせてダイナミックレンジを拡大する手法があったそうです。
今のハイダイナミックレンジと同じ手法です。
木村はこれを何度か試みたそうですが、現存していないそうです。
●資料
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