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2013年10月30日 (水)

北海道で米を作ることと、路上から武道館へ行くこと

どの国の言語でも、文化的に重要なものや身近なものには、少しの違いを区別するための言葉がいくつもできると言われています。

たとえば、英語では雄牛と雌牛、去勢牛を区別しますし、カナダエスキモーには雪を意味する単語がいくつもあるそうです。

そう考えると、日本人に取って「米」は特別なものであることがよく分かります。植物としての名前は「稲」、収穫したら「米」、調理したら「飯」と、全部違う言葉だからです。

しかも「米を炊いたもの」と「食事一般」が同じ「飯(めし)」あるいは「ご飯」と呼ばれます。米だけが食事ではないでしょうに、驚くべき大ざっぱさです。

そういうわけで「調理した米」を指すときは「米の飯」という、「頭が頭痛で痛い」的なまどろっこしい言い方をしなければいけません。

北海道は、明治初期まで米がとれませんでした。旧北海道は「松前藩」と呼ばれましたが、石高は便宜的なものであって、米ではなかったという話です。

明治以降、品種改良が進み、北海道は質・量ともに全国有数の米産地となりましたが、まだまだ知られていません。私も最近まで知りませんでした。

●ななつの星に願いを込めて~北海道米応援の歌~

そこで、北海道米販売拡大委員会では、北海道米のイメージソングを作ってもらい、PRにつとめることになったようです。歌うのは、作詞・作曲も担当した宮崎奈穂子さん。

2曲あるのですが、主テーマ「ななつの星に願いを込めて~北海道米応援の歌~」がwebサイトで聞けます(いきなり曲が流れるので注意してください)。

北海道米「ななつぼし」「ゆめぴりか」にかけた歌詞が並びます。

北海道で米作りをしている人の決意と努力がふんわり歌われていて、ななかないい曲なんですが、ちょっと気になったのが「北海道米なんて、と言われた日もあった」という歌い出し。

ふつう、企業や団体をテーマにした曲ではこういうネガティブな言葉は使いませんが、いきなりネガティブです。

確かに、私の年代では北海道米というのは美味しいイメージがありません(今は魚沼産コシヒカリに匹敵するくらい美味しくなっているそうです)。

そもそも、北海道で米を作らなくてもいいだろうという意見もあったと思います。北海道と言えば、酪農やジャガイモのイメージですよね。

でも、最初に紹介したとおり、日本人にとって米は特別な作物です。どうしても米を作り、自給し、出荷したいと思ったのでしょう。

もともと米作りに適しているとは言えない気候の土地で、おそらくは多くの人に「米は無理だ」「わざわざ米を作らなくてもいいではないか」と言われたのではないかと想像します。そして、他府県はもちろん、きっと地元の方からも言われたのではないでしょうか。

歌を担当した宮崎奈穂子さんは、昨年11月2日に武道館単独コンサートを実現しました。路上ライブから、せいぜい数百人の箱を経験しただけで、いきなり公称席数1万5,000の武道館です。彼女の著書や講演によると「集客なんてできっこない」「武道館でやる意味があるのか」「やるとしても段階を踏むべきだろう」と言う人もたくさんいたそうです。

それでも、子供の頃からの夢だった武道館というのは、彼女にとって特別な意味を持っているのでしょう。最終的に6,000人を集めてコンサートを成功させます。

北海道米の曲を聴きながら、そんなことを思いました。

宮崎奈穂子さんは、「武道館の感謝の気持ちを形にするため、1年で365曲、あなたの歌を作ります」という試み「歌・こよみ365曲」に挑戦中で、この曲もその一環です。

「歌・こよみ」には個人の曲も企業の曲もありますが、だいたいにおいて個人の曲の方が盛り上がります。企業だとどうしてもドラマ性が薄まるので、それは仕方ないと思います。そのかわり、安心して聞ける曲になるので別に悪いことでもありません。逆に、個人の曲だと緊張が高まりすぎて疲れることもあります。

北海道米の歌は、企業(団体)対象にしてはドラマ性の高い曲になったのは、冒頭のネガティブな言葉があるからでしょう。

北海道米の歌は、シングルCDとして発売されています。ほとんどは北海道内で配布されるそうですが、先日の「Birthday Eve闇市」で売っていたので購入しました。

シングルには3曲入ってますが、3曲目は「夢を歌えば」で、これは「歌・こよみ365曲」のテーマ曲ですから実質2曲です。そして、この2曲目がさらに衝撃的でした。

●日本一の米所を目指す北海道米の歌 Rice Land Hokkaido

2曲目の「日本一の米所を目指す北海道米の歌 Rice Land Hokkaido」はWebサイトでは見当たらないので、今回初めて聞きました。

まず、出だしからすごい。「北海道米なんて」程度じゃ済みません。   

「やっかいどう米」と言われた時代があった   

「鳥またぎ米」とばかにされたりもしたけれど

「ほっかいどう」じゃなく「やっかいどう」ですよ。鳥も食わずにまたいでいく「鳥またぎ」ですよ。こんな言葉、生産者に対して言えますか。でも言われたのでしょうね。

北海道の多くの米ブランドとともに、専門用語も登場します。たとえば「タンパク仕分け」。米は、タンパク質含有量が少ない方が米の食味が良いそうです(さっき調べた)。低タンパクな米を選別するのが「タンパク仕分け」のようです。

仕分けされた米はどうなるのでしょう。価格が下がるか、加工に回されるか、廃棄ってことはないと思いますが、自分の作った米が二級品になってしまうのはつらいことでしょう。

歌には「7.4はきっと今年も厳しいけど」という数字も登場しますが、これはタンパク仕分けのしきい値のようです(さっき調べた)。1年かけて育てた米が、7.4という数字で選別されるわけです。

それにしても、よくこんな生々しい歌ができたなあ、と思います。

楽曲としては1曲目の方がスマートですが、生産者には2曲目の方が心に響くかもしれません。ちょうど「夢に歌えば」と「路上から武道館へ」のような関係でしょうか。
2つの曲は同じシーンを歌っていますが、ずいぶんと印象が変わります。


▲「路上から武道館へ」 

▲「夢に歌えば」

それにしても。現在でも、北海道で米作りをすることは大変なことではないかと思います。まして、先人の苦労は並大抵のことではなかったと思いますが、農協のWebサイトにはそうした苦労話が一切登場しないのがかっこいいですね。

これから北海道米を食べようと思いました。

【追記】
続編の記事を書きました「
デジタルカメラの技術と農産物の品質管理

【12/23追記】
私、「日本一の米所を目指す北海道米の歌 Rice Land Hokkaido」が農協の方の作詞だということにあとで気付きました(本ブログに作詞者の方からコメントをいただいています)。

1曲目も「やっかいどう米」という言葉を入れようとしたのですが、言葉が悪すぎると「北海道米なんて」に落ち着いたそうです。

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コメント

私のような素人作詞の曲にまで解説を付けていただき
大変ありがとうございます。

横山様の書かれている内容は、間違っていませんが
「ゆめぴりか」の7.4のタンパク基準について
少し説明させていただきます。

「ゆめぴりか」は、タンパク6.8までを基準内A
として、7.4までを基準内Bとして仕分け集荷し
【AとBでは数百円/60kg格差があります】
ここまでの規格品が、「ゆめぴりか」と米袋に表示して
店頭に並びます。

タンパク7.5以上のものは、基準外として
【基準外も確か2段階に別れます】
米袋に銘柄名を表示しない用途、ブレンド米ですとか
業務用途に販売して、当然価格差は生じますが
生産者もそれを納得済みで、食味を維持しています。

少々長くなりましたが、基本的には、
努力した者が報われる仕組みを
生産者自らが構築しています。

投稿: 米米北海道 | 2013年11月 4日 (月) 11時55分

丁寧なお返事、ありがとうございます。
続編も書いたのでよかったらどうぞ。

農産物は、ほんとに作り手によって味が変わるので、ブランドを確立させるのは大変だと思います。
そして、往々にして農協は嫌われ役を引き受けることになるそうですが、これからも頑張ってください。

投稿: ヨコヤマ | 2013年11月 4日 (月) 17時34分

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