写真講座(第3回)~奥行きの表現~
写真は二次元なので、縦横奥行きに時間を加えた現実世界を投影するには、奥行きを平面に変換する必要がある。
奥行きを表現するには、絞りを変える方法とレンズの焦点距離を変える方法がある。
カメラの設定がP(プログラム)モードやオートモードの場合、絞りの変更は難しい。機種によっては「プログラムシフト」と言って、自動設定された値を自由に変更できるが、上級者向けの機能である。
そこで、今回は、どんなカメラでもズームレンズを使えば簡単に変えられる「焦点距離」について解説しよう。
焦点距離は、レンズに入ってきた光が焦点を結ぶまでの距離のことである。焦点距離が大きいレンズを「望遠レンズ」、小さいレンズを「広角レンズ」と呼ぶ。
▲焦点距離の考え方
実際のレンズは複数で構成されており、実際の焦点距離とレンズの規格としての焦点距離が違うので大変ややこしい。
覚えておきたい原則は以下の通りである。
望遠レンズ
- 遠くのものでも大きく写る(「望遠」の名前の由来)
- ピントの合っていない部分が大きくぼける
- 遠近感がなくなり、どれも近くにあるように見える(圧縮効果)
- 一般には70mm以上の焦点距離
広角レンズ
- 広い範囲(広い角度)が写る(「広角」の由来)
- ピントの合う範囲が広く、ぼけにくい
- 遠近感が強調される
- 周辺がひずみやすい
- 一般には35mm以下の焦点距離
標準レンズ
- 人間にとって自然な範囲が写る(ただし35mmフィルムの場合)
- 一般には50mm前後の焦点距離
焦点距離が固定されたレンズが「単焦点レンズ」、焦点距離を変更できるレンズが「ズームレンズ」である。ズームレンズは便利だが、構造が複雑なため単焦点レンズよりも画質が落ちる。
実際の例を見てみよう。以下の2枚はズームレンズを使って、同じ場所から撮影したものである。
なお、カメラはソニーα77で、35mmフィルムのおよそ半分の範囲しか写らない。詳しい理屈は省略するが、50mm標準レンズを装着しても、写る範囲は75mmレンズと同程度でしかないため、あたかも焦点距離1.5倍の望遠レンズになったように見える。
上の写真、つまり望遠レンズの写真の方が背景が整理され、近くに寄せたような印象を受ける。
しかし、下の写真、つまり広角側の写真をトリミングして、望遠側と同じような構図にしてみよう。
左の耳の後ろに、赤いスリッパが写ってしまっているので違う写真だと分かるが、言われなければほとんど気付かないのではないだろうか。
実際には両者は絞りの値が違うのだが(75mm撮影はF4、18mm撮影はF8)、遠近感はほとんど変わらない(絞りについては回を改めて解説する)。
「望遠レンズで遠近感がなくなる」というのはウソで、実際の遠近感は被写体(撮影対象)と撮影者の距離で決まる。レンズで決まるわけではない。
望遠の方が離れて撮れる、広角の方が近くに寄って撮れるというだけのことである。また広角の方が画面周辺の歪みが大きく、これが遠近感を強調する効果もある。
トリミングをせずに、被写体が同じ大きさで写るように撮った場合は広角と望遠で差が出る(この場合、撮影者と被写体の距離が変わる)。望遠レンズでは背景の大きさと被写体の大きさがあまり変わらない(圧縮効果)。一方、広角レンズでは背景はより遠くに感じられるため、遠近感が強調される。狭い部屋を広く見せるために使われるのはこのためだ。
▲同じ位置から撮影(左:120mm F8.0、右:18mm F3.5)
120mm撮影の方が遠近感が圧縮されていることが分かる。
その他、背景のぼけ具合も違う。
今回の結論
望遠と広角は、撮影者が前後に動くことで、遠近感をコントロールするために使うものである。単に構図を変えたい場合はトリミングすれば良い。
写真を撮るときはズームに頼るなと言う。ズームレンズを使う時は被写体を見ず、先に焦点距離を設定しろとも言う
ズームに頼ると、今ここから見えているものを大きくしたり小さくしたりするだけで済ませてしまい、被写体を真剣に観察できないからだ。しかも、ズームによる効果と、撮影者が近くに寄ったり遠くに引いたりする場合の効果は異なる。
良い写真を撮りたければ、被写体と向き合い、レンズの効果を活かせる距離を見つけるために、足を使い、最適な焦点距離のレンズを使うべきだ。
【おまけ】
カメラメーカーのWebサイトには撮影に関して有益な記事が多い。このブログを書いているときに発見したのがパナソニックのサイト「LUMIXデジタルカメラ講座」である。
全38回と多いように思えるが、1回の講座は1画面であり読みやすい。おすすめする。
パナソニックやソニーは、カメラメーカーとしては格下に見られがちだが、最近は老舗メーカー以上に良い製品を出しているのであなどれない。
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