映画『恋する女たち』
大森一樹監督は、アイドルを撮らせたら本当にうまい。
自主制作16mm映画『暗くなるまで待てない』や、メジャーデビュー作『オレンジロード急行(エクスプレス)』も面白いし、医学部の学生たちを描いた『ヒポクラテスたち』も面白い(元キャンディーズ伊藤蘭の復帰第1作としても有名)。医学部出身の監督だけあります。『ヒポクラテスたち』はDVDを買ってしまいました。
でも、やっぱりうまいのはアイドル映画だと思います。
吉川晃司三部作
- すかんぴんウォーク(1984年)
- ユーガッタチャンス(1985年)
- テイク・イット・イージー(1986年)
どれも良かったし、SMAPの『シュート』(1994年)も良かったと思います。
でも、一番面白かったのは、斉藤由貴の三部作
中でも面白かったのは、『恋する女たち』で、原作は少女小説家の第一人者氷室冴子。
主人公は、斉藤由貴、高井麻巳子(元おニャン子クラブ)、相楽晴子(スケバン刑事II「ビー玉のお京」)の3人。どの子もアイドル全盛期での登場です。
体育の授業中、体操服のズボンが破れた恥ずかしさに「自分のお葬式」を出してしまう高井麻巳子、尼寺へ行くといって斉藤由貴が髪を切るシーンなどが印象的ですが、私が最も好きなのはこの台詞(うろ覚えですが)。
私たちは未熟かもしれません
でも、人を愛する気持ちは誰にも負けません
高校生らしいストレートな思いが伝わってきます。
斉藤由貴の片想いの相手が若き日の柳葉敏郎で、あまり2枚目ではない感じで描かれます。そして
なぜ他の人じゃなく、彼じゃないと駄目なのだろう
(別に格好良くもないのに)
と自問します。
斉藤由貴が、ちょっと背伸びして映画「ナインハーフ」を見たら、上映館の前で柳葉敏郎に「こんな映画見るんか」とからかわれ、(隣で上映した看板を見て)「あんたこそ、いい年して『タッチ』なんか見てんじゃないわよ」と言い返すシーンは、共感とともに笑いを誘います(何しろ、劇場公開時の同時上映が『タッチ2』ですから)。
【訂正】柳葉敏郎が見ていたのは、「タッチ」ではなく、「ナイン」(原作はどちらもあだち充が原作)で、「ナインハーフ」とかけていたそうです。
台詞は「高校生にもなって『ナイン』とか『タッチ』とかマンガ見てんじゃないわよ、2分の1足りないの」でした。ナインとナインハーフなので、1/2足りない、というわけです。
とにかく台詞がいちいち素晴らしい。原作者の氷室冴子と、監督の大森一樹の組み合わせがいいのでしょう。
何よりも素晴らしいのがラストシーン。野点する3人を、カメラが引くと断崖絶壁の上にいる様子が出てきます。
高校生の女の子が持つ危うさと、がけの上にいる危うさと、そして引いたときの景色の美しさが本当にいい感じです。
そして、検索してて思い出したんですが、斉藤由貴がモデルのヌード画を前に言う台詞もいい感じです。
レーザーディスクを持ってたのですが、今再生できないので、期間限定セールを機会にDVDを買ってしまいました。

恋する女たち【期間限定プライス版】 [DVD]
『恋する女たち』は、文化庁優秀映画賞、第11 回日本アカデミー賞優秀脚本賞・優秀監督賞を受賞し、興行的にも成功したそうです。
(※ヒポクラテス、シネアスト、プロフェッサー―大森一樹の軌跡―)
斉藤由貴主演作は、このあと黒柳徹子原作の『トットチャンネル』、オリジナル脚本の『さよならの女たち』と続きます。
どれもいい作品ですが、『トットチャンネル』は原作の味が強い感じがします。植木等の快演はいいし、「日本のテレビ界を背負う」という気負いと、若さゆえの失敗がいい感じで交じり合って、いい作品になっているのですが、テレビ黎明期を描いた原作の力には及ばないようです。
『さよならの女たち』は、予告編で「原作・氷室冴子」と伝えられますが、封切られた作品には氷室冴子の名前が全くありません。
撮影中に書かれた大森一樹監督のエッセイには
- 原作者に逃げられた、1ページもシナリオが出来ていない
- 仕方がないので、自分で(シナリオを)書く
という泣き言が並んでいました。
当初、小樽から始まった物語が、突然神戸に移動するのも不自然です。
どうやら、北海道出身の氷室冴子の原作設定からスタートしたものの、神戸出身の大森一樹の手に負えず、土地勘のある神戸に移したのだと想像します。
作品としては決して悪くないのですが、脚本を練り上げる時間がなかったことが、全体に影響しているように思います。
「お父さんは、アイドルになる」とい突然の宣言(実は、若い頃アイドルだった)、それを受けて「お母さんは、イルカの調教師になる」という破天荒さ。そして「あなたも好きなようにしなさい」と家を追い出される理不尽さ。
どれも面白いのですが、ちょっと粗い感じがします。
ちなみに大森一樹監督は、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』も映画化しています(どちらも神戸出身ですね)。
私が見る限り、原作の雰囲気をうまく表現していました。また、原作にないエピソードとして「鼠」が、8mm映画を撮る場面も登場します。この映画が、いかにも「鼠」が撮りそうな感じで、原作以上に原作らしい感じがしました。
残念なことに、村上春樹自身はこの作品を気に入らなかったらしく、以来、『ノルウェイの森』が映画化されるまで、長編作品の映画化の許可が下りず、大森一樹監督は同業者から恨まれたそうです。
どうでもいいですが、『ノルウェイの森』のレイコさんは、最初に読んだときから桃井かおりのイメージでしたが、別の女優さんでした。
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