新井素子『未来へ……』発売記念トーク&サイン会(追記あり)
11月22日(土)の連休初日、秋葉原の書泉ブックタワーで、新井素子さんの『未来へ……』発売記念トーク&サイン会がありました。

未来へ・・・・・・
ご存じない方もいらっしゃるかも知れませんが、新井素子さんは高校生のとき、奇想天外というSF雑誌の新人賞でデビューした方です。詳しくは「SF小説『.....絶句』(新井素子)について」を見てください。
初めてお会いする新井素子さんは、最初に作品を読んだ30年と同じお顔でしたが、身体は少々ふっくらされたようです。
可愛らしいショートブーツを履いていらっしゃったんですが、ほめるの忘れました。
60名定員の所、整理番号が38番だったので油断していたら入場は先着順で、集合時間の15:45ぎりぎりに行ったら3列目25番目くらいでした。
担当編集者の方との掛け合いで進行します。編集者の方、お若いせいか、進行がに所々突っ込みどころがありました。
冒頭から「この本をお書きになったきっかけは」、「うーん、まあ依頼されたからですね」。
実際には、「二十歳の頃に『漂流教室』(楳図かずお)みたいなお話を書きたい」と思ったそうなので、30年以上前に読んだマンガがきっかけのようです。なお、新井素子さんも再三主張しているように、実際のお話は『漂流教室』とは全然違う内容です。
ストーリーの進行中に大災害がないことを考慮して、阪神大震災と東日本大震災の間に設定したそうです。ただ、2012年と1996年を行ったりきたりするので、日付と曜日をよく間違えたそうです。ここは編集さんのチェックが重要ですね。
日曜だと思って書いていたら、実は月曜だったとか(そうすると会社に行くシーンを追加しないといけない)、そういう苦労は多かったようです。
また、新井素子さんは1996年と2012年のカレンダーを出すのに苦労されたようです。Outlkookとか、Webベースのスケジュール帳とか使っていればすぐ分かるんですが、そのへんのツールには疎いようで、ここも編集さんの出番だったとか。
「なんで成人式の日が変わる(変わった)のか」「春分の日は年によって違うのは面倒」などの泣き言が聞かれました。
また「あとがき」にもあったように、登場人物が勝手に動き出して、話が全く終わらない。450枚くらいの話の予定で、150枚くらい書いてから連載を開始したのに、全く終わらない。終わりが見えたのは2ヶ月ほど前(つまり「あと2回くらいで終わりそうです」ということ)だそうです。
編集的には「面白ければ(終わらなくても)何とかなる」と思ったそうですが、結構大変だったんじゃないかと思います。実際、新井素子さんを昔担当した人に相談して回ったようなこともおっしゃってました。
それでも、2年間の連載で毎回40枚、原稿を落とすこともなかったことに対して編集の方がお礼を言うと「私はふつうです、私以外の人が遅いんです」とおっしゃってました。
伸びに伸びた連載は、最終的に1割ほどカットして単行本に収録されたそうです。
しかし、この「お話が終わらない」は前にもどっかで(何度か)聞いたことがあるような気がします。でも、作中人物が勝手に動き出して、展開が読めないのは案外楽しいとおっしゃってました。
「未来へ……」には成人式を迎えた女性が登場するのですが、新井素子さんにはお子さんがいらっしゃらないので、つてを頼って取材をお願いした母子がいたそうです。その2人が、適度な距離感を保ったまま仲が良く、作品にずいぶん影響を与えたそうです。もっと親を疎んじるのかと思ったようですね。
私たちの世代(私と新井素子さんは1歳違いです)とは親子関係も変化しているようで、私の経験からも、総じて親子は仲が良くなっているみたいです。
新井素子さんも作家生活35年、途中で書くのがおっくうになってきた時期もあったそうです(おっくうだったか、いやだったか、表現は忘れましたがネガティブなものです)。最近はまた楽しくなってきて「仕事は楽しい方が絶対いいでしょう」という言葉に、会場全体が大きくうなずいていました。
前に、かがみあきらさんに「この文体で30歳になったらどうするんだ、と言われてたけど、そのままだったね」と言われたそうですが、本当に同じ文体で35年間続いています。この辺の背景は最初に紹介した「SF小説『.....絶句』(新井素子)について」を見てください。
文体は変わらないんですが、最近の作品「イン・ザ・ヘブン」とか「未来へ……」を読むと、文体はそのままで、作品に対する深さとか感動の度合いとかがずいぶんと進歩したように思います。本人の努力(努力しているという感覚はないかも知れませんが)のたまものなのでしょうね。
「ただ、体力は落ちました。自分の体力もそうなんですが、登場人物が走ると、ちょっと休ませてあげるようになった」という話はしていらっしゃいました。
このあと、なぜか囲碁談義。囲碁のサークルに入っていらっしゃるそうですが、この辺は省略。
質問コーナー
そして質問コーナー、サイン会参加者にはあらかじめ用紙が配られており、質問が書けます。
有名な作家の面白いエピソードを紹介してください。
星新一さんは、前屈したとき手のひらがぴったり床に付く。あの長身で「最近運動してるんですよ」と突然立ち上がって前屈されたのでびっくりした。
注: 星新一氏の長身は有名で「SF作家クラブには星新一より背の高い人は入れない」という噂があったくらいです。
夫をぬいさん好きにする方法を教えてください。
反則技を使います「おーい、夫」(ふつうに客席に座っていた夫君登場)
「一緒に寝ることじゃないですか」
注: 婚約時代にフライデーという写真週刊誌に載ったのと、「…‥絶句」の冒頭にフルネームが登場すること、結婚物語などのエッセイに登場することから、ファンの間でその存在はよく知られています。また、新井素子さんはぬいぐるみ好きで有名で、質量ともに他の追随を許さないのではないかと思います。
今でも鶴を折りますか
本を読むときの癖なので(手元を見ずに折る)、今でも3日で1,000羽は確実。ただ、今は机ではなく寝っ転がって本を読むので、台がないから折っていない。
問題は紙の調達で、1枚の折り紙を16等分するのが最適なのに、その作業が大変。
昔はよくプレゼントしたけど、処分に困るので、七夕飾りと一緒に燃やしたりした人もいる。夫にも、独身時代はちょっと風邪を引いたら千羽鶴を折っていた。引っ越しのときに(引っ越し屋さんが?)大量の千羽鶴を見て「どんなに病弱なんだ」と思われたかも(注: 結局処分したそうです)。
作品を演じてもらいたい声優さんはいらっしゃいますか
実は声優は全く知らないので分からない。広川太一郎さんだけが例外。もともと、海外ドラマの吹き替えで見て、そこから名前を覚えていた。
注: この質問は「星へ行く船」シリーズの太一郎さんは、広川太一郎さんをイメージしていた話がベースになっています。
書き直したい話はありますか
今書き直したら確実に違う話になるので、それだったら新しいお話を書きたい。
つらいことをストレートに原稿にぶつけますか、昇華してから書きますか
体験を直接書くタイプではないので、昇華といえば昇華。「未来へ……」も20歳の時の思いがやっと書けたくらい(注: ちなみに現在50歳代です)。
手癖で書いていますか
基本的には、登場人物に語らせるので「手癖といえば手癖」。100枚書いてみて、駄目なら書き直すというのが苦ではないのでできる。
注: すみません、これだ誰かに何か言われた話がベースだと思うのですが、私には分かりませんでした。
どの作品が好きですか
お母さんに、姉と妹のどちらが好きですかと聞くようなものなので、答えられません。
初めて読んだSF
意識したのは「ボッコちゃん」(星新一)、そこから星新一作品の解説を書いている人の作品に進んだ。父がSFファンなのでだいたい何でもあった。それから平井和正さんのウルフガイシリーズに進んだ(注: ウルフガイのファンなのは有名です)。
新井素子さんのタイトルといえば「…」ですが(笑)、「.....絶句」だけ点が5つなのはなぜ?
力強く「点5つが正しい」。他は活字になる都合で、仕方なく3または6。でもパソコン使い出してから私も点4または6になってる。
注: 私の質問です。質問内容でちょっと笑いが起きたので満足です。回答も予想が裏付けられて満足です。当時もらったファンレターの返事です。1983年ですね。
▲当時既に「これからは返事は書きません」と宣言していたんですが、実は返事がありました(基本的にはコピーで最後に少しだけ自筆の分がありました)。
「まるまる新井素子」の写真を見て「執筆に使っている鉛筆は三菱ユニですか」と聞いたら「ハイユニです、惜しい」というお返事でした。その後も何度か葉書をいただいています(文面はコピーですが)。
第13あかねマンションのその後は?
あまり時期を特定するようなことは書いてないけど、さすがに携帯電話が出てからストーリー進行が全く変わってしまった。第13あかねマンションはすべてが昭和なのでちょっと難しい。(第13あかねマンションを出入口に使う)「扉を開けて」シリーズは別だけど。
注: 第13あかねマンションは、初期の新井素子作品で、作品を越えたハブとなる場所で、ある種の聖地です。なぜ第13あかねマンションがこんなことになったのかは「…‥絶句」を読んでください。
...絶句〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
...絶句〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
好きなキャラクターは?(確かこんな質問)
「暗殺教室」の殺せんせー(ころせんせー)、面白そうだけど残酷なやつだったらいやだなあと夫と話していたら、通りすがりの人に「それ、面白いですよ」と言われて買った。
「ふたりのかつみ」の続きは?
(絶句してました)
作家にならなかったら何になってた?
他の能力が低すぎるので、何かになれるとは思わないが、親親戚に講談社勤務が多いので講談社、でも私を採用してくれるかな。
本を読んでいれば満足だけど、編集者は意外に動き回るので、動かなくていい校閲者がいい。
好きな絵はありますか
夫が、絵というか写真を飾るので、いりません。広い意味での家族写真、まあ、ぬいさん(ぬいぐるみ)なんですけど。リビングだけで30枚くらい飾ってある。
日本シリーズどうでした
夫が動かないくなるのでやめてほしい
あらすじをまとめるとどれくらいになりますか
できていないお話のあらすじ(内容説明)だから長くなるので、できた作品のあらすじはそんなに長くない。けどまとめたくない。
注: 確か「扉を開けて」か何かで、あらすじを説明するだけで1冊越えるというエピソードがベースなんだと思います。
TwitterとかFacebookとかしないんですか
無理です
一番苦労した作品は
一番最近終わった作品です
ライトノベルと一般小説の違いは
ありません。売る側の都合です。SFとか恋愛小説とかは、読む人に情報を提供するために必要ですが、ライトノベルかどうかは関係ありません。
注: 新井素子さんの作品は、まだライトノベルという名前ができる前からありますが、氷室冴子さんなんかと並んで「ライトノベルの元祖」とされています。
「星へ行く船」完全版
進行していますが、来年のゴールデンウィークくらいかな。
- 星へ行く船
- 通りすがりのレイディ
- カレンダーガール
- 逆恨みのネメシス
- 星から来た船
以上5作だが、3巻と5巻では長さが全然違う(注:「星から来た船」は上中下の3巻で出版)。でも、5巻シリーズの5巻目だけ厚いのはまあいいかな、と思ってる。あと既発表の短編「αだより」を付ける。
各巻に40枚くらいの短編を書き下ろすので、(「αだより」を除いて)4作。既に3作できています。水沢所長、麻子さん、中谷君の階段の話ができているので、あとは熊谷さんだけ。
ただ、装丁が難航している。
注:すべてコバルト文庫から出ていましたが、並べてみると1~4巻の厚みはそれほど変わらなかったはずです。
終わりに
ご本人の写真は、ちょっと迷った末に撮るのをやめました。許可を得て撮っている人もいらっしゃったので問題ないのでしょうけど、顔かたちで仕事をする人ではないので。
だらだらと書いた文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。新井素子歴には少々ブランクがあるのと、エッセイはあまり読まないので、質問の意味が分からなかった部分もありますが、ご容赦ください。
そして、もし。
もし、あなたが、このブログを楽しんでくれたとして。
もしもご縁がありましたのなら、いつの日か、また、お目にかかりましょう。
【追記】
3点リーダーの話は興味を持っていただいた方が多かったようで、質問した私としても大変嬉しく思います。
実は、当日、ノートを忘れてしまい、書泉のブックカバーの裏にメモしてました。
トークでは、囲碁の話がすっぽり抜けています。多くの人が出てくるんですが、お名前が聞き取れなかったので。
お友だちが「ヒカルの碁」にはまって、(その声優さんが登場する)ビデオゲームにはまって、うちでやっているうちに「よく考えたらここで本当の囲碁やったらいいんじゃね?」となったそうです。
碁盤はお友だちの自作(何しろマンガ家は縦横マス目を書くのが仕事)だったそうです。
あと、「人生で一度だけ練馬以外に住んだ、7ヶ月だけ」という話もあったんですが、地名が聞き取れませんでした。住民税は練馬にしか払ったことないそうです(確か年始の住所で決まったはず)。
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コメント
昨日、参加させていただいていた者です。
記憶力に脱帽です
覚えていようと思いつつ
一緒に笑っているうちに
お話の内容が半分位抜け落ちてしまった私ですが
改めて流れを思い出せました。
投稿: 恵 | 2014年11月23日 (日) 11時07分
コメントありがとうございます。
ノートを忘れたので、書泉のブックカバーの裏に一所懸命書いてました。
投稿: ヨコヤマ | 2014年11月23日 (日) 12時57分