2014年12月31日 (水)

2014年に推してきた人: アイドルから文化人まで

年末なので、1年を振り返ってみようかと思います。私にしては大変珍しいことです。

業種問わず、2014年に推してきた人たちベスト12(あとで2人思い出した)。文化人もアイドルも一緒になっているので順位は付けません。50音順です。

推しているのに、今年、ご無沙汰だった人。

来年、推したい人。

他にもいろいろいらっしゃるのですが(特に歌手の方)、このへんで線引きしておきます。

以下、簡単な紹介です。

来年推し予定のユキノさん、きゃんちさんを除き、それぞれの人についてブログ記事があるはずです。

 

畔地留似(あぜちるい)

女優さん、だと思います。BSフジの番組「ワッチミーTV×TV」のイメージキャラクター「ワッチミーナ」を決めるサバイバル型オーディションの第1回(ワッチミーナ2014)と第2回(ワッチミーナ2015)に出場。残念ながら2014は予選敗退、2015は惜しくも入賞しませんでしたが、イベントにはときどき出演されています。

2014年4月12日に、ワッチミーナ2014のインストアイベントに(観客として)来ていたところで知り合いになりました。

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●新井素子

SF作家です。昔から知っているんですが(たとえばブログ「SF小説『.....絶句』(新井素子)について」)、小説よりもエッセイが増えた頃から疎遠になっていました。2014年に短編集『イン・ザ・ヘブン』を読み、続けて久々の長編新刊『未来へ…』を読み、サイン&トークショーに参加しました。

今後の活躍に期待しています。


未来へ・・・・・・

 

飯田えりか

少女写真家。「ショートカット推進委員会」が企画した写真集「Life is short」を撮影した方。青山裕企さんのアシスタントをされていたので、作風もちょっと似ていますが、もっと暖かい感じがします。

「Life is short」の出版費用をクラウドファンディングで募集したのが2013年末で、成立が2014年です。撮影担当が決まったのも2014年だったと思います。

一度、個展にお邪魔したときはお会いできたのですが、その後のイベントではずっとすれ違いで残念です。


LIFE is SHORT (ライフ イズ ショート)

 

烏賀陽弘道

ジャーナリスト。少々口が悪いのですが、取材に基づいた、しっかりした仕事をされています。当たり前のようで、当たり前じゃないです。読者が記事に対して、自分で価格を決めて支払う「投げ銭ジャーナリズム」実践中です。

高校時代からの知り合いで、2014年に特別なこともなかったのですが、引き続き注目しています。


ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅

 

岡田斗司夫

評論家と言っていいでしょう。もともとアニメなどの「おたく文化」の担い手でしたが、最近は活動のジャンルを広げています。烏賀陽さんの「投げ銭」が「歩合給」なのに対して、支持者から「固定給」をもらう「FREEex組織」の実験中です。

2013年末から、FREEexの外郭組織「ヨコヤマ企画」を立ち上げ、2014年にいくつかの仕事をしたのですが、事実上の名義貸しでした。あまり好ましいことではないので、2015年1月で解散の予定です。


僕たちは就職しなくてもいいのかもしれない (PHP新書)

 

さいあくなな

若いアーティストで、絵を描いています。妙に迫力のある絵で、一度見たら忘れられません。

専門学校を出て、本名で活動されていましたが、いつもネガティブなことばかり言っているせいか「さいあくなな(最悪なな)」と名乗りはじめました。

2013年から見ていますが、2014年はライブハウスでの個展やシンガーとしてのライブ出演など、活躍の場を広げていらっしゃいます。

個々の絵のインパクトもあるんですが、こうして大量に展示して空間を変えてしまうのが彼女の真骨頂です。

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姫乃たま

自称地下アイドルの隙間産業。でも、私はアイドル活動をYouTubeでしか見たことないです。彼女のコラムは本当に面白いのでおすすめです。エロ文化、特にエロ本に興味があり、アダルトビデオ関連の仕事(出演じゃないです)もしていらっしゃいます。

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芙和せら

フラワーセラピスト。大学で知り合ったので、もう相当長い付き合いです。自ら考案した「フラワーセラピー」の普及に尽力されています。目標は、300年後になっても広く普及していること(300年計画)。そういえば、写真持ってない(学生時代の写真ならどこかに残っていると思いますが。

「芙和せら」は(おそらくフラワーセラピストをもじった)ペンネームです。この間、彼女の団体のイベントに行ったとき「フワ先生とお知り合いですか?」と聞かれ一種の戸惑いました。


幸せを呼び込む Happy Flower Calendar 2015 (インプレスカレンダー2015)

 

町宮亜子

女優を中心に、司会などのタレント業をなさっています。BSフジの番組「ワッチミーTV×TV」のイメージキャラクター「ワッチミーナ」を決めるサバイバル型オーディションの第1回(ワッチミーナ2014)に出場、敢闘賞でした。眼鏡キャラクターなんですが、眼鏡を取った方が美人だと思います。歌が大変素晴らしいので、音楽系の仕事を期待しています。

理星(りせ)さんのイベントで見かけたのが2013年の秋、2014年にワッチミーナ2014の敢闘賞、それからいろいろイベントに参加しています。

撮影会もあったので、写真はあるんですが、事務所のしばりが強いので掲載しないでおきます。

 

宮崎奈穂子

路上ライブを中心に活動するシンガーソングライター。2012年には武道館単独コンサートを実現、2012年12月から武道館の応援に対する感謝を形にするため、1年で365曲を作る「歌・こよみ365」にチャレンジし、2013年11月に完成。楽曲は30枚組CDとして限定販売されました。

2014年4月から、私の専用ブログ「Annotated「歌・こよみ365」」では、「歌・こよみ365」の全曲を1日1曲ペースで紹介しています。

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MOBACO.

ステージ衣装を中心に制作しながら、自らも歌う「デザイナーシンガー」。もっとも、ステージに出る人は自分の衣装のイメージはだいたい決まっているので、そのイメージを現実化し、より良いものを高い完成度で提供する「職人さん」。アイドル衣装が中心ですが、そうでないものも制作してもらえるようです。

2014年は、わずかですが本業に貢献できたので、良かったと思います。

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理星(りせ)

高校2年生のシンガーソングライター。歌のうまさに驚きました。2013年の秋に知って、2014年は何度かライブにも行きました。

イベントで、町宮亜子さんと歌った「手紙」(アンジェラ・アキ)は泣きすね。ジョン・レノンの「Imagine」も持ち歌で、これもなかなか聞かせます。日本人が歌う英語の曲は、だいたい「無理にやらなくていいよ」と思ってしまうことが多いんですけど、これもなかなかいいです。写真の衣装はMOBACO.さん制作。

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大禅師文子

宮崎奈穂子さんと同じ事務所のシンガーで、路上ライブをなさっていました。今年はブッキングライブが多く、なかなか見ることが出来ませんでしたが、来年はもう少し見に行きたいと思います。写真は2013年のものです。アンコールは撮影が許可されることが多かったので、その時に撮りました。「大禅師文子」画像検索すると、半分くらい私の写真が出てくるような気がします。

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アイリス ユキノ

佐藤友紀乃の名前で、BSフジの番組「ワッチミーTV×TV」のイメージキャラクター「ワッチミーナ」を決めるサバイバル型オーディションの第1回(ワッチミーナ2014)に、町宮亜子さんとともに出場。この時はあまり気にしていなかったのですが、2014年の秋に、(500円と安かったので)なんとなく見たブッキングライブで、激しいダンス中も終始笑顔の姿に圧倒されました。ワッチミーナ2014でもっと仲良くなっていれば良かった。来年注目している人です。

2014年11月にメジャーデビューだそうです。


We Are Miracles

 

喜屋武ちあき(きゃんち)

SF作家新井素子の自己紹介を真似た文章がTwitterで流れてきて、あまりのうまさに爆笑。

2014年末のコミックマーケット(コミケ)に出ていたというので、ブースまで行きました。

このコミケでは、マイクロソフトのイベントにも出ていたようで、これから見守りたいと思っています。

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2014年11月23日 (日)

「未来へ……」新井素子

新井素子さんの作品は、一時期かなりはまっていて、文庫化などであとがきが変わるたびに同じ本を買っていたくらいです。

今、Wikipediaで調べたら「ディアナ・ディア・ディアス」(1985年)で止まってました。

その後「チグリスとユーフラテス」(1999年)は読んで、これはとても面白かったんですが、その後もまたブランクがあって、復刊された「……絶句」を再読、読んでなかった「ブラックキャット」シリーズの後半を読んでいるうちに、「新井素子研究会」というTwitterアカウントを知り、そこから昨年出た「イン・ザ・ヘブン」を読みました。

イン・ザ・ヘブン」は、短編集で、どれも面白かったんですが、特に表題作の「イン・ザ・ヘブン」が一番強い印象に残っています。最初は人情話かと思ったら、途中から一気にSFになり、余韻の残るラストまで引き込まれました。

そうして、先日、新刊「未来へ……」発売記念トーク&サイン会が開催されるということで、行ってきました。この時の様子は「新井素子『未来へ……』発売記念トーク&サイン会(追記あり)」をご覧ください。

未来へ……」は、時間もののSFです。どこまでストーリーを書いていいものか分からないので、これだけ先に書いておきます。

「未来へ……」は、実にいいタイトルです。
このタイトルの良さを知るために、全部読んで欲しいと思います。

以下、ネタバレだろうが何だろうが、気にせず書きます。クララが立つことも、沖田艦長が死ぬことも、アクロイド殺人事件の犯人も、知っていても面白い作品は面白いんです。

ですが、結末を知りたくない人もいるでしょうから、そういう人はここから先は読まないでください。でも、なるべく本質的なことは書かないようにします。


2012年、成人式を迎えた菜苗は、香苗という双子の姉がいたことをかすかに覚えていた。菜苗は、成人式を機会にしまい込んでいた仏壇を出して欲しいと言う。それがきっかけになったのか、母親の若葉は1996年の夢を見る。しかも一晩で1日進む、リアルタイム進行の夢を。

1996年は、香苗が遠足に行くバスの転落事故で亡くなった年。若葉は、香苗を救おうと夢の中の自分に語りかける。

最初は、香苗だけを休ませるつもりだったが、1996年の若葉は、他の子を見殺しにはできないと反発する。そのため、遠足自体を回避する方向で検討するがうまい方法が見当たらない。

バスジャックして「バスを止めなければ自殺する」と脅そうかという、あまり良いとは言えない案しか思いつかないまま当日を迎えたが、バスが停車中、香苗が突然走り出し、追いかけているうちにバスが遅れ、事故を回避できる。

前夜、菜苗が香苗に夢でメッセージを送ることができ、とにかく逃げろ(走れ)と伝えたからだ。

走れ、未来は、その先にある。未来に向かって、走れ

翌朝、目が覚めたら香苗がいた、ということはなく、いるのは菜苗だけ。バスジャック計画を立て始めた頃から過去は徐々に変わっていき、事故を回避されたところで過去は別の道を歩んだらしい。改変されたここから先の未来はパラレルワールドになると別のところで示唆されていたので、これは納得できる。

以上が、ものすごく大ざっぱな本書のストーリーである。

作者の新井素子は「楳図かずおの『漂流教室』に登場する、子供が消えた母親を描きたい」と書いていたが、母の気持ちが本当によく伝わってきた。同時に、娘の菜苗の、母を思う気持ちも本当に良かった。

トークイベントでは「もともとこんなに仲良くさせるつもりはなかった」とおっしゃっていたが、実にいい作品に仕上がったと思う。

仮に香苗が助かっても、それはパラレルワールドに進むだけであって、死んだ人が生き返るわけではないし、逆に何かの事情で自分が消えてしまうかもしれない。それでも、今、死のうとしている娘を助けられるなら何でもするという気持ちは十分に伝わってきた。

香苗は香苗で、就職活動を控えた自分の存在を忘れたかのように、死んだ姉の心配をする母に対して、本当に良くサポートしていたのが素晴らしい。

新井素子は、若い頃は「命を食べる」ということがテーマの作品が多かった。デビュー間もない頃の作品には、人肉由来の「ヒトタンパク」が登場するし、「グリーンレクイエム」では植物であっても「命を食う」ことに差はないと主張し、「ひとめあなたに…」ではカニバリズムまで登場する。前期新井素子の集大成である「…‥絶句」では、人間が他の動物を犠牲にしていいのかと問いかける。

ついでに書いておくと「二分割幽霊奇譚」に登場する吸血鬼は「血を吸うと言っても、死ぬまで吸うわけじゃない」というところにも彼女の世界観が出ている。さらについでに「吸血鬼に血を吸われた人が吸血鬼になったら、世界中みんなが吸血鬼になる、そんな訳あるか」には笑った。

そんな風に「食」を描いていたのが「チグリスとユーフラテス」や短編集「イン・ザ・ヘブン」では種の維持という話になる。

テーマは変わっても、根本にあるのは「命」である。そのテーマが、年齢とともに広がっていて、さらに面白くなっている。

だいたい、生物が生きる目的は「現在の命=個体維持=食事」と「次の命=種の維持=生殖」しかないわけだが、そこに正面から向き合っている作品は意外に少ない。

しかし、本書が面白いのは関係の多重性にある。娘のことを「種の維持」のためと考えている母はいないだろう(江戸時代の武家だって、娘は「家」の継承者ではない)。百歩譲って「守るべきもの」=「種の維持」と考えたとしても、成人すれば自分をサポートしてくれる「大切な人」になる。

「未来へ……」では、ぼーっとしているように見える娘の菜苗が、周りが見えなくなっている母親をしっかりサポートするところが見所である。こういう娘がいるなら、親も悪くないかもしれない。

本当に面白い本だった。自信をもっておすすめする。


未来へ・・・・・・

 

おまけ

2つだけ気になったことがあります。

1つは老眼の記述。「字が小さいので目を近付ける」という記述がありますが、老眼になると、むしろ目を離さないとよく見えません。でも、小さい字は離すとますます小さく見えるので、どっちにしても結局読めません。

新聞の縮刷版を読むのは、老眼鏡なしには無理ではないかと思います。ただし、近視の人はもともと焦点距離が近くにしか合わせられないので「メガネをはずして近くで見る」という手が使えるかもしれません(現在の私)。

もう1つは「お姉ちゃんだから」という表現。実は私の妹が一卵性双生児で、母からよく話を聞きました。大原則は「2人は平等だけど別の人間だから、比較しない」「同時に生まれたのだから姉も妹もない」、そして「必要以上にべったりしないように、学校のクラスは分けてもらう」です。

姉妹の区別をしないというのは本当に徹底されていて、家庭内ではただの一度も聞いたことがありません。先日、遺産相続の書類を書くとき、母との続柄欄に「長女、次女って書くのかな?」と躊躇して「子でいいのでは」という議論があったくらいです(保険会社の記入例も統一されておらず、結局「長女・次女」にした)。

2人を平等に育てたはずの若葉さんが「お姉ちゃんだから我慢しなさい」と言うのはちょっと不自然な気がします。

あと、一卵性双生児でも性格は違う。これは正しいんですが、体質は同じなので、一方が病弱っていうのもちょっと不自然です。幼い頃に1人だけ病気になったとか言うなら分かります。

ちなみに、正面から撮った写真だったら、2人の区別は付きますが、横顔で暗かったりすると難しいですね。母も時々間違えてました。

「運転免許は1枚でいいのでは、誕生日も同じだし」という冗談もありました(もちろんその種の不正は一度もしていませんw)。

大人になると、徐々に変わってきて、差が大きくなるんですが、それでも葬儀屋さんはそっくりな顔しているのでびっくりしてました。

双子の話を書くのだったら、聞いてくれれば良かったのに(笑)。

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新井素子『未来へ……』発売記念トーク&サイン会(追記あり)

11月22日(土)の連休初日、秋葉原の書泉ブックタワーで、新井素子さんの『未来へ……』発売記念トーク&サイン会がありました。


未来へ・・・・・・

ご存じない方もいらっしゃるかも知れませんが、新井素子さんは高校生のとき、奇想天外というSF雑誌の新人賞でデビューした方です。詳しくは「SF小説『.....絶句』(新井素子)について」を見てください。

初めてお会いする新井素子さんは、最初に作品を読んだ30年と同じお顔でしたが、身体は少々ふっくらされたようです。

可愛らしいショートブーツを履いていらっしゃったんですが、ほめるの忘れました。

60名定員の所、整理番号が38番だったので油断していたら入場は先着順で、集合時間の15:45ぎりぎりに行ったら3列目25番目くらいでした。

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▲書泉ブックタワーのイベントスペース

担当編集者の方との掛け合いで進行します。編集者の方、お若いせいか、進行がに所々突っ込みどころがありました。

冒頭から「この本をお書きになったきっかけは」、「うーん、まあ依頼されたからですね」。

実際には、「二十歳の頃に『漂流教室』(楳図かずお)みたいなお話を書きたい」と思ったそうなので、30年以上前に読んだマンガがきっかけのようです。なお、新井素子さんも再三主張しているように、実際のお話は『漂流教室』とは全然違う内容です。

ストーリーの進行中に大災害がないことを考慮して、阪神大震災と東日本大震災の間に設定したそうです。ただ、2012年と1996年を行ったりきたりするので、日付と曜日をよく間違えたそうです。ここは編集さんのチェックが重要ですね。

日曜だと思って書いていたら、実は月曜だったとか(そうすると会社に行くシーンを追加しないといけない)、そういう苦労は多かったようです。

また、新井素子さんは1996年と2012年のカレンダーを出すのに苦労されたようです。Outlkookとか、Webベースのスケジュール帳とか使っていればすぐ分かるんですが、そのへんのツールには疎いようで、ここも編集さんの出番だったとか。

「なんで成人式の日が変わる(変わった)のか」「春分の日は年によって違うのは面倒」などの泣き言が聞かれました。

また「あとがき」にもあったように、登場人物が勝手に動き出して、話が全く終わらない。450枚くらいの話の予定で、150枚くらい書いてから連載を開始したのに、全く終わらない。終わりが見えたのは2ヶ月ほど前(つまり「あと2回くらいで終わりそうです」ということ)だそうです。

編集的には「面白ければ(終わらなくても)何とかなる」と思ったそうですが、結構大変だったんじゃないかと思います。実際、新井素子さんを昔担当した人に相談して回ったようなこともおっしゃってました。

それでも、2年間の連載で毎回40枚、原稿を落とすこともなかったことに対して編集の方がお礼を言うと「私はふつうです、私以外の人が遅いんです」とおっしゃってました。

伸びに伸びた連載は、最終的に1割ほどカットして単行本に収録されたそうです。

しかし、この「お話が終わらない」は前にもどっかで(何度か)聞いたことがあるような気がします。でも、作中人物が勝手に動き出して、展開が読めないのは案外楽しいとおっしゃってました。

「未来へ……」には成人式を迎えた女性が登場するのですが、新井素子さんにはお子さんがいらっしゃらないので、つてを頼って取材をお願いした母子がいたそうです。その2人が、適度な距離感を保ったまま仲が良く、作品にずいぶん影響を与えたそうです。もっと親を疎んじるのかと思ったようですね。

私たちの世代(私と新井素子さんは1歳違いです)とは親子関係も変化しているようで、私の経験からも、総じて親子は仲が良くなっているみたいです。

新井素子さんも作家生活35年、途中で書くのがおっくうになってきた時期もあったそうです(おっくうだったか、いやだったか、表現は忘れましたがネガティブなものです)。最近はまた楽しくなってきて「仕事は楽しい方が絶対いいでしょう」という言葉に、会場全体が大きくうなずいていました。

前に、かがみあきらさんに「この文体で30歳になったらどうするんだ、と言われてたけど、そのままだったね」と言われたそうですが、本当に同じ文体で35年間続いています。この辺の背景は最初に紹介した「SF小説『.....絶句』(新井素子)について」を見てください。

文体は変わらないんですが、最近の作品「イン・ザ・ヘブン」とか「未来へ……」を読むと、文体はそのままで、作品に対する深さとか感動の度合いとかがずいぶんと進歩したように思います。本人の努力(努力しているという感覚はないかも知れませんが)のたまものなのでしょうね。

「ただ、体力は落ちました。自分の体力もそうなんですが、登場人物が走ると、ちょっと休ませてあげるようになった」という話はしていらっしゃいました。

このあと、なぜか囲碁談義。囲碁のサークルに入っていらっしゃるそうですが、この辺は省略。

 

質問コーナー

そして質問コーナー、サイン会参加者にはあらかじめ用紙が配られており、質問が書けます。

有名な作家の面白いエピソードを紹介してください。

星新一さんは、前屈したとき手のひらがぴったり床に付く。あの長身で「最近運動してるんですよ」と突然立ち上がって前屈されたのでびっくりした。

注: 星新一氏の長身は有名で「SF作家クラブには星新一より背の高い人は入れない」という噂があったくらいです。

夫をぬいさん好きにする方法を教えてください。

反則技を使います「おーい、夫」(ふつうに客席に座っていた夫君登場)
一緒に寝ることじゃないですか

注: 婚約時代にフライデーという写真週刊誌に載ったのと、「…‥絶句」の冒頭にフルネームが登場すること、結婚物語などのエッセイに登場することから、ファンの間でその存在はよく知られています。また、新井素子さんはぬいぐるみ好きで有名で、質量ともに他の追随を許さないのではないかと思います。

今でも鶴を折りますか

本を読むときの癖なので(手元を見ずに折る)、今でも3日で1,000羽は確実。ただ、今は机ではなく寝っ転がって本を読むので、台がないから折っていない。

問題は紙の調達で、1枚の折り紙を16等分するのが最適なのに、その作業が大変。

昔はよくプレゼントしたけど、処分に困るので、七夕飾りと一緒に燃やしたりした人もいる。夫にも、独身時代はちょっと風邪を引いたら千羽鶴を折っていた。引っ越しのときに(引っ越し屋さんが?)大量の千羽鶴を見て「どんなに病弱なんだ」と思われたかも(注: 結局処分したそうです)。

作品を演じてもらいたい声優さんはいらっしゃいますか

実は声優は全く知らないので分からない。広川太一郎さんだけが例外。もともと、海外ドラマの吹き替えで見て、そこから名前を覚えていた。

注: この質問は「星へ行く船」シリーズの太一郎さんは、広川太一郎さんをイメージしていた話がベースになっています。

書き直したい話はありますか

今書き直したら確実に違う話になるので、それだったら新しいお話を書きたい。

つらいことをストレートに原稿にぶつけますか、昇華してから書きますか

体験を直接書くタイプではないので、昇華といえば昇華。「未来へ……」も20歳の時の思いがやっと書けたくらい(注: ちなみに現在50歳代です)。

手癖で書いていますか

基本的には、登場人物に語らせるので「手癖といえば手癖」。100枚書いてみて、駄目なら書き直すというのが苦ではないのでできる。

注: すみません、これだ誰かに何か言われた話がベースだと思うのですが、私には分かりませんでした。

どの作品が好きですか

お母さんに、姉と妹のどちらが好きですかと聞くようなものなので、答えられません。

初めて読んだSF

意識したのは「ボッコちゃん」(星新一)、そこから星新一作品の解説を書いている人の作品に進んだ。父がSFファンなのでだいたい何でもあった。それから平井和正さんのウルフガイシリーズに進んだ(注: ウルフガイのファンなのは有名です)。

新井素子さんのタイトルといえば「…」ですが(笑)、「.....絶句」だけ点が5つなのはなぜ?

力強く「点5つが正しい」。他は活字になる都合で、仕方なく3または6。でもパソコン使い出してから私も点4または6になってる。

注: 私の質問です。質問内容でちょっと笑いが起きたので満足です。回答も予想が裏付けられて満足です。当時もらったファンレターの返事です。1983年ですね。

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▲当時既に「これからは返事は書きません」と宣言していたんですが、実は返事がありました(基本的にはコピーで最後に少しだけ自筆の分がありました)。
「まるまる新井素子」の写真を見て「執筆に使っている鉛筆は三菱ユニですか」と聞いたら「ハイユニです、惜しい」というお返事でした。その後も何度か葉書をいただいています(文面はコピーですが)。

第13あかねマンションのその後は?

あまり時期を特定するようなことは書いてないけど、さすがに携帯電話が出てからストーリー進行が全く変わってしまった。第13あかねマンションはすべてが昭和なのでちょっと難しい。(第13あかねマンションを出入口に使う)「扉を開けて」シリーズは別だけど。

注: 第13あかねマンションは、初期の新井素子作品で、作品を越えたハブとなる場所で、ある種の聖地です。なぜ第13あかねマンションがこんなことになったのかは「…‥絶句」を読んでください。


...絶句〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

...絶句〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

好きなキャラクターは?(確かこんな質問)

「暗殺教室」の殺せんせー(ころせんせー)、面白そうだけど残酷なやつだったらいやだなあと夫と話していたら、通りすがりの人に「それ、面白いですよ」と言われて買った。

「ふたりのかつみ」の続きは?

(絶句してました)

作家にならなかったら何になってた?

他の能力が低すぎるので、何かになれるとは思わないが、親親戚に講談社勤務が多いので講談社、でも私を採用してくれるかな。

本を読んでいれば満足だけど、編集者は意外に動き回るので、動かなくていい校閲者がいい。

好きな絵はありますか

夫が、絵というか写真を飾るので、いりません。広い意味での家族写真、まあ、ぬいさん(ぬいぐるみ)なんですけど。リビングだけで30枚くらい飾ってある。

日本シリーズどうでした

夫が動かないくなるのでやめてほしい

あらすじをまとめるとどれくらいになりますか

できていないお話のあらすじ(内容説明)だから長くなるので、できた作品のあらすじはそんなに長くない。けどまとめたくない。

注: 確か「扉を開けて」か何かで、あらすじを説明するだけで1冊越えるというエピソードがベースなんだと思います。

TwitterとかFacebookとかしないんですか

無理です

一番苦労した作品は

一番最近終わった作品です

ライトノベルと一般小説の違いは

ありません。売る側の都合です。SFとか恋愛小説とかは、読む人に情報を提供するために必要ですが、ライトノベルかどうかは関係ありません。

注: 新井素子さんの作品は、まだライトノベルという名前ができる前からありますが、氷室冴子さんなんかと並んで「ライトノベルの元祖」とされています。

「星へ行く船」完全版

進行していますが、来年のゴールデンウィークくらいかな。

  • 星へ行く船
  • 通りすがりのレイディ
  • カレンダーガール
  • 逆恨みのネメシス
  • 星から来た船

以上5作だが、3巻と5巻では長さが全然違う(注:「星から来た船」は上中下の3巻で出版)。でも、5巻シリーズの5巻目だけ厚いのはまあいいかな、と思ってる。あと既発表の短編「αだより」を付ける。

各巻に40枚くらいの短編を書き下ろすので、(「αだより」を除いて)4作。既に3作できています。水沢所長、麻子さん、中谷君の階段の話ができているので、あとは熊谷さんだけ。

ただ、装丁が難航している。

注:すべてコバルト文庫から出ていましたが、並べてみると1~4巻の厚みはそれほど変わらなかったはずです。

 

終わりに

ご本人の写真は、ちょっと迷った末に撮るのをやめました。許可を得て撮っている人もいらっしゃったので問題ないのでしょうけど、顔かたちで仕事をする人ではないので。

だらだらと書いた文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。新井素子歴には少々ブランクがあるのと、エッセイはあまり読まないので、質問の意味が分からなかった部分もありますが、ご容赦ください。

そして、もし。

もし、あなたが、このブログを楽しんでくれたとして。

もしもご縁がありましたのなら、いつの日か、また、お目にかかりましょう。


【追記】

3点リーダーの話は興味を持っていただいた方が多かったようで、質問した私としても大変嬉しく思います。

実は、当日、ノートを忘れてしまい、書泉のブックカバーの裏にメモしてました。

トークでは、囲碁の話がすっぽり抜けています。多くの人が出てくるんですが、お名前が聞き取れなかったので。

お友だちが「ヒカルの碁」にはまって、(その声優さんが登場する)ビデオゲームにはまって、うちでやっているうちに「よく考えたらここで本当の囲碁やったらいいんじゃね?」となったそうです。

碁盤はお友だちの自作(何しろマンガ家は縦横マス目を書くのが仕事)だったそうです。

あと、「人生で一度だけ練馬以外に住んだ、7ヶ月だけ」という話もあったんですが、地名が聞き取れませんでした。住民税は練馬にしか払ったことないそうです(確か年始の住所で決まったはず)。

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2013年4月28日 (日)

「まつゆう*」さんと会ったよ

「まつゆう*」さんというモデルさんがいらっしゃいます。
失礼ながら、世間的にはそんなに有名ではないと思うのですが、密かに注目しております(でも、歌手の宮崎奈穂子さんよりは多くの人が知ってました)。

以前からお会いしたいと思っていたのですが、先日、フリーマーケットに出店されるということで出かけてきました。

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Twitter(@matsuyou)の印象通り、大変気さくな方でした。

経歴は、公式サイトプロフィールに詳しいので、省略します。
現在の肩書きは「ブロガー・モデル」となっているように、ブログにも力を入れていて、ヤプログ!のスタートアップにも関わったということです。

今まで黙っていましたが、私の猫写真サークル「まぐにゃむフォト」のブログがヤプログ!なのは、そのためです。

初期の頃からブログをやっていたため、一時期仕事がなくなったそうです。
当時は「ブログやってる」というだけで、おたく系のイメージが付いてしまい、ファッション誌から敬遠されたとか。

今ならむしろ(書く内容によっては)「おしゃれ」ってことになるようで、時代も変わったものです。

最近では(最近でもないですが)「まつゆう*のゆるゆるtwitter入門」や、「できるポケット LINE 公式ガイド スマートに使いこなす基本&活用ワザ 100」の著者としても活躍されていますが、彼女の(共)著書で一番のおすすめは「iPhoneキレイ撮りカメラ入門」です。

iPhoneキレイ撮りカメラ入門 (小学館ビジュアルムック)

以前書評サイトに書いたコメントをそのまま掲載しておきます。

タイトルにこそ「iPhone」と入っているが、実際にiPhoneの話はほとんどない。

モデルの撮り方、撮られ方、可愛く採る方法、クールに撮る方法、構図の作り方など、写真を撮る人と撮られる人の両方に役立つ情報が満載。

特に「撮られる側」の立場が書かれた本は珍しい。

カメラというハードウェア技術の内容はあまりないから、コンパクトカメラでも一眼レフでも役に立つ。

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2010年9月25日 (土)

【読書日記】津田大介、岡田斗司夫、小飼弾

思い出したように書いてみる。

●Twitter社会論(津田大介)
やっぱり、実践している人の評論は面白い。
おすすめ。

●岡田斗司夫のひとり夜話(同人誌)
ロフトプラスワンで開催された同名のイベントをまとめたもの。
今回は「オタキングex」による書き起こしと編集。
「ノート術」が特に面白かった。
普通の「ノート術」は、読み返すことに重点を置くが、岡田斗司夫のノート術(最近「スマートノート」と命名された)は、基本的に「書きっぱなし」。

「人生の意味」は「受け取って」「考えて」「真似して」「伝える」、以上。
っていうのも面白かった。これが「オタキングex」につながった。

他にも「恋愛の経済学」も面白かったけど、ここでは省略。

●未来改造のススメ(岡田斗司夫・小飼弾)
まさに「オタキングex」を作る時の話。
金と仕事を巡る価値観の転換が面白い。
昔、某外資系企業の役員について

あれだけ(ストックオプションで)金持ってたら、(生活のためのお金は不要なので)さぞかし仕事も楽しいでしょう。

と揶揄していた社員がいたけど、全く正しい。

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2010年7月14日 (水)

【読書日記】誰も知らない小さな国

佐藤さとるの「誰も知らない小さな国」を最初に読んだのは小学生3年生の時だったと思う。

なぜ小人は人間に見つからないのか、ということが論理的に説明されているのが新鮮だった。

少彦名命(スクナヒコナノミコト)と、コロボックルの同一性を調べるところも面白かった。
民俗学的にどうなのかは分からないけど、納得できる説明だった。

子供の時に1度見たあと、大人になるまで再会しないという設定も新鮮だった。
同じ時に別の人間も後ろ姿を見ていたというシーンは感動的だった。

実は、アニメ化もされている。
ただし、原作の論理的な部分をばっさり削って、単にキャラクタを借りてきただけだった。
1回見てショックを受けて、それっきり見ていない。

後に読んだ、講談社現代新書「ファンタジーの世界」(佐藤さとる)では

ファンタジーは、日常から逸脱する部分を最小限にして、大部分は現実世界の論理と合わせないといけない。

とあった。
普通の人が小人を見たら驚くはずだ。だから主人公は驚かないといけない。そういうことらしい。

「誰も知らない小さな国」は、かなり人気があったようで、続編も発表された。

  • 誰も知らない小さな国(1959年)
  • 豆つぶほどの小さないぬ(1960年)
  • 星からおちた小さな人(1965年)

が、率直に言って1作目ほどのインパクトはなかった。
作者もこのへんでやめようということを書いていたと思う。

それでも、作者自身が納得できず書いたのが4作目「ふしぎな目をした男の子」だ(と、後書きに書いてあった記憶がある)。
ただし、登場人物は前作とのつながりが薄く、番外編のような形だった。
これでは納得できない。

このまま終わりかと思ったときに出たのが「小さな国のつづきの話」である。
手元に書籍がないのではっきりしないが、確か初版は1980年代だったと思う。
かなりの年月が経っている。
これが本当の最終巻になったが、文字通り「圧巻」だった。

ファンタジーは、日常から逸脱する部分を最小限にして、大部分は現実世界の論理と合わせないといけない。

という原則を、こんな形で適用する方法があったのかと驚いた。

図書館司書をしている主人公は、児童書「誰も知らない小さな国」に出てる小人を目撃し、驚く。

司書になるような人であれば読んでいて当然の本だから、設定自体は不自然ではない。
しかし、主人公はシリーズの一部に含まれている。
一種の自己言及である。

「作り話だと思っていたら、本当にいた」と驚く姿は、1作目と同じテイストを感じ、わくわくしながら読むことができた。

さて、一連の著作は長らく版元品切れだったが、今回復刊ドットコムから「佐藤さとるファンタジー全集」として復刊が決まった。

講談社現代新書として刊行されていた「ファンタジーの世界」も収録されている。この評論も面白いので、復刻は非常に喜ばしい。

硬派なファンタジー小説が好きな人にお勧めである。

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2010年7月 9日 (金)

【読書日記】超マシン誕生

トレーシー・キダーの「超マシン誕生」は、ダイヤモンド社から出版された当時、月刊アスキーの書評を見て読みました。
データゼネラル社が、VAX-11対抗機種を開発する過程を描いたノンフィクションです。

当時、月刊アスキーで「近代プログラマの夕べ」を連載していた遠藤諭さんも「超マシン誕生」についてブログを書いていらっしゃいます。

その後、事実上の絶版になっていたのですが、「復刊ドットコム」の働きかけで、最近日経BPから新訳・新装刊で復刊されました。
ここまで長かった...

最初に本書を紹介したのは月刊「Windows Server World」(IDGジャパン)2005年6月号の連載「IT嫌いはまだ早い」の「ヤンキーとIT業界人は昔話が好き」。リンク先は編集前の原稿です。

この時、担当編集者から「復刊ドットコム」で復刊が要望されていることを知り、すぐに票を入れ、以下のコメントを記入しました。

抜群に面白かった。IT業界のプロジェクトものとしては「闘うプログラマ」なんかも有名だが、ずっと面白い。
特に、最後の製品発表会での開発チームの扱いが、本当にリアルで泣ける。実際にこういうことはよくあるそうです。

このコメントは、「復刊ドットコム」からの復刊通知メールにも引用されていて、大変嬉しく思っています。

その後、日経BPの何かの媒体にも書いた覚えがあります。
編集の方にダイヤモンド社の書籍を貸した記憶があるので。

復刊が決まった直後にはComputer Worldのブログにも「16ビットから32ビット、32ビットから64ビットへの移行」「開発者の名前と「物語」に対する共感」と題して書きました。

会社のブログにも「【復刊】超マシン誕生」として書きました。

さらに、見本誌ができたというので、日経BPの担当の方から書評用に献本していただきました。日経BPには何のコンタクトもしていないのに、丁寧な手紙まで同封されていて恐縮しています。

実は、既に復刊ドットコム経由で購入していたので、もうすぐ手元に2冊目が到着します。
2冊あっても仕方ないので、どうするかは思案中です(売るようなことはしません)。

ただ、すみません。まだ読んでません。小飼弾氏の序文を読んだだけです。
近いうちにちゃんと書評を書きます。たぶんComputer Worldのブログになると思います。

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2010年6月17日 (木)

【読書日記】俺たち訴えられました!

「俺たち訴えられました!」烏賀陽弘道・西岡研介(河出書房新社)

取材記事がJR東労組などから訴えられている西岡研介氏と、コメントが意図しない形で掲載されてオリコンから訴えられていた烏賀陽(うがや)弘道氏の対談、じゃなくて「相互インタビュー」。

二人ともジャーナリストではあるが、西岡氏の場合は周到な準備をして裁判対策をしているのに対して、烏賀陽氏は全く無防備。
西岡氏はその点を鋭く突っ込んで来るのが面白かった。

もっとも烏賀陽氏は、電話取材で出したコメントが意図しない文脈で引用されることで訴えられている。準備しておくのは無理だと思う。

似たような経歴の2人で、どちらも「嫌がらせ訴訟(SLAPP)」の被害者であるが、本当に恐いのは烏賀陽氏の方。
烏賀陽氏の裁判は「ジャーナリストが訴えられた」のではなく「コメントを求められた一般人が訴えられた」と考えた方が適切。

本書の主張は、一貫して「オリコンは嫌がらせのために訴訟を起こした」ということだが、そのことをブログに引用しただけでオリコンから名誉毀損で訴えられる可能性もある。
(このブログだって危ない)

烏賀陽氏に降りかかった災難は、あらゆる人に降りかかってくる可能性がある。
合法的なテロみたいなもんである。

前に、オリコンSLAPP事件について、皮肉を込めて「(あなたがジャーナリストでないのなら)謝ればいい」と雑誌に書いたことを反省している。
オリコンは「謝れば許してやる」とプレスリリースを出したけど、他の会社は謝っただけで済ませてくれないかも知れない。

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2010年5月25日 (火)

【読書日記】フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略

クリス・アンダーソンの有名な本。

FREEにまつわることが網羅されていて最後まで面白く読めました。

まとめると

  • ・無限に複製可能な情報(ビット)は無料になる。
  • ・大量生産(複製)可能な物体(アトム)は安価になる。
  • ・複製できない「個人体験」こそが価値を持つ。

ということでしょうか。

また、フリーで利益を上げるには

  • 広告(Googleなど)
  • 便利なオプション(ゲームのアイテムなど)
  • プレミアサービス(ニコニコ動画など)
  • 他の商品(コンサートに対するCDなど)

などが出ていました。

インターネットはほぼ「完全市場」と考えてもいいのに、需要と供給で価格が決まるのではなく「誰から」「どうやって買うか」が重視されるというのは、なんだか市場経済以前に戻った感じです。

なお、IT分野の内容には一部事実誤認や日本市場と合わない部分があります。
だからといって、本書の価値が下がるわけではありませんが、引用するときは注意してください。

私が気付いたのは以下の点です。

●P.135
ビル・ゲーツの公開書簡はホビイストの大反発をかい「俺たちが無料でコピーして使ってやっているから普及したのだ」と開き直る人も多かったと聞いています。
一般向けにはもともと有償ですし、ホビイスト向けには効果がなかったはずです。

●P.138 Netscape Navigator
無償化されたのはずっとあとで、当初は有償でした。
無償なのはベータ版で、製品版が出ると次のバージョンのベータ版が無償公開されていました。私も1本購入したので確かです。

●P.138 WORKS
これ、日本においては、マイクロソフトの数多い失敗ソフトで、WORKSをバンドルしたメーカーは多くないはずです。 米国ではそれなりに売れたそうなので、誤りとは言えませんが。

●P.149 IEの市場シェア
30%まで落ちたことはないはずです。
最近「ついに60%を割り込む」というニュースが入っています。

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2010年4月27日 (火)

【読書日記】クラウド時代とクール革命

クラウド時代とクール革命(角川歴彦)角川oneテーマ21

角川グループ会長の著作。
意欲は伝わってくるが、事実から根拠に至る過程の論理が弱い。
根拠のない推測も多い。修辞的な文章が多く、素人くさい。
突然アテナ(ミネルバ)の名前が出てきたりして面食らう。

著者は2014年がメディア大変革の年と予測するが根拠は不明瞭。
おそらくEPIC2014に刺激されたのだと思うが、EPIC2014について言及されていないのは不自然。

まあ、でも、そこそこ面白かった。

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