2007年5月 3日 (木)

EPIC2014 & EPIC2015

遅ればせながら、EPIC2014とEPIC2015を見ました。
GoogleとAmazon.comが合併してGooglezonとなり、ニュースは一次媒体から自動生成されるというお話。

生き残るために、既存メディアはニッチ市場向けに紙媒体のみを提供。
オンラインで入手できたら、Googleに検索されてしまいます。
(会員制にすればいいだけですけど)

記者クラブで得た情報だけを載せるなら、Googlezonだけで十分なのかも。
記者クラブはメディアを守るのではなく破壊することに、新聞社は気付いていないのか。

EPIC2014では、さらに、blogの情報を使えば、個別インタビューの必要もなく、両論併記もできてしまうというお話。

記者の存在意義は、取材を通して、意図的に隠された内容を調べ、当事者も明確に意識していなかった思いをまとめることのはず。
記者の求めに応じたコメントに対して、記者ではなく、コメントを提供した人間を訴えるのは、最後に残された報道活動を成り立たせなくしてしまうでしょう。

オリコン訴訟の本質はここにあるのだと思う。
フリーランスのジャーナリストは危機意識を持っているのに、大手新聞社が無視しているのは、記者クラブ問題と似ている。

2014は日本語字幕版あり。
2015は英語版のみ。続編ではなく若干の修正と2015年の追加があるだけです。

http://adinnovator.typepad.com/ad_innovator/2005/09/epic_2014epic20.html
http://www.mediologic.com/weblog/archives/000559.html

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2006年12月14日 (木)

「Winny裁判」京都地裁判決に思う

読み返してみたら、なんかむちゃくちゃな展開ですが、面倒なのでそのままにしておきます。

ファイル交換ソフト「Winny」の開発・公開をめぐる刑事裁判で、京都地裁は開発者の金子氏を有罪とした。IT Pro Watcherでは小飼弾氏が皮肉を込めた感想を書いている。私の意見は、IT Pro Watcherに掲載されているので、ここではちょっと違った話を書く。

マンガ「サイボーグ009」で、ギルモア博士は「科学者は、好きな研究さえできれば、どんなことでもやる」と言った。ギルモア博士は、ブラックゴーストという団体(会社?)で、兵士あるいは武器としてのサイボーグを研究をしていた。その成果が001から009である。ギルモア博士は「良い人」ということになっているが、実際には紛争の原因を作った責任者なのである。

ギルモア博士は、後に反省してブラックゴーストと袂を分かつ。当然、ブラックゴーストに狙われるので「余生は、義手義足の改良に力を尽くしました」ということにはならない。

さて、現実はどうなのだろう。研究者の倫理観と言えば、米国の原爆研究(マンハッタン計画)がよく引き合いに出される。しかし、少なくとも最初の同期は「ドイツよりも先に原爆を作る」という、彼らなりの倫理観の結果であっただろう。問題は、その後、ナチスは原爆製造の技術スキルがないことが分かっても、計画を中断しなかったことか。

しかし、ドイツが作らなくても日本が作るかもしれないという思いはあっただろうし、仮に中断していたとしても、米ソ冷戦時代に復活しただろう。そうしたら、最初の被爆国はキューバだったかもしれない。

アインシュタインは、原爆の理論的根拠を提供したことを悔やみ、バートランド・ラッセルとともに宣言を出す。ラッセル=アインシュタイン宣言である。

実際のところ、最初から悪用されることを考えて技術を利用する人は少ない(と信じたい)。ノーベルはダイナマイトを作ったが、そのために大規模な工事が短期間にできるようになった。兵器として流用したのはノーベルではない。兵器としてのダイナマイトを憂い、ノーベル賞を創設したのは有名な話である。

こうしてみると、どうやら「世の中のために」という動機を持ち、「悪用されたことを悲しむ」と良いらしい。Winny作者の金子氏も「欠点は分かっていたが、あとで改善しようと思った」「こんなに早く普及するとは思わなかった」「反省したので、Winny基金を作ります」おっと、金儲けをしていないからこれは無理か。とにかく、そういう風に世論に訴えれば無罪になったのではないかな、と思う。

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2006年10月16日 (月)

「IT嫌いはまだ早い」2005年10月号

月刊「Windows Server World」(http://www.windows-world.jp/) 連載の「IT嫌いはまだ早い」より

編集作業が入る前の原稿なので、出版されたものとはタイトルを含め、内容が若干違います。

●もてるIT Hero

世間では、IT業界の人は、引きこもりと、おたくと、ホリエモン的経営者しかいないと思っている人もいるようだ。もちろん、それは真実ではない。大阪に住む人が、お笑いと、商売人と、ヤクザだけではないのと同じことだ。しかし、そう思われても仕方ない部分がないわけではない。今月はコミュニケーションスキル、つまり人付き合いの話をしよう。

●もてる男

筆者の学生時代、「もてる男」というのは、顔や良くて、運動ができるか、音楽(特にロック)ができる奴と決まっていた。博識であったり、理屈っぽかったりする人間はそれほど人気がなかったように思う。小谷野敦氏の著書「帰ってきたもてない男」(ちくま新書)によると、この傾向は1960年頃から70年代にかけて生まれたのだという。筆者が生まれた時期である(道理で筆者がもてないわけだ)。それ以前は「顔のいい男、金のある男、時には詩を作ったりできる男」がもてたのだそうだ。

 ただ、最近は「運動ができる」というのもちょっと怪しくなってきて、「会話が面白い」「一緒にいて楽しい」というのが上位に来るような気がする。頭が悪くて会話が面白いという人はあまりいないので「頭のいい男」も復権するかもしれない

●もてる女

 では「もてる女」はどういうものだろう。女性の場合には、顔とスタイルが2大要素だろう。これは今も昔もあまり変わらないようで、女性たちの悩みの種になっているらしい。実際のところ筆者にはよく分からない。「顔」についての考察は石井政之氏の「人はあなたの顔をどう見ているか」(ちくまプリマー新書)あたりを読んでほしい。

 もっとも、友人たちにサンプリング調査をすると「頭がいい」「会話が面白い」というのも重要な要素なようである。要するに、男女とも、同じタイプが「もてる」ようになるだろう

●「頭がいい」とは

 ところで「頭がいい」とはどういうことだろう。「コンピュータの操作をしている」というと、「頭いいんですね」と言われることがあるが、あまり本気だとは思えない。歴史的に見ると「記憶力がいい」が頭のいい証拠だと思われた時期がある。ただ、一定量の記憶力は必要だろうが「記憶力が高いから頭がいい」とは、今では誰も思わないだろう。

「計算ができる」のが頭のいい証拠だった時期もある。SF小説「レンズマン」シリーズの番外編に「渦動破壊者」(1960年)という作品がある。ここに「彼は高度な計算ができるくらい頭がいい」という表現が出てくる。これも今となってはちょっと違うような感じがする。電卓とコンピュータの普及により、計算はどっちかというと単純労働になってしまった。

余談だが「人工知能」という学問(この言葉ができたのは1956年)は「コンピュータは計算ができて記憶ができる、コンピュータは頭のいい人と同じ性質を持っている、従ってコンピュータは頭がいい」という誤解から生まれた学問であると筆者は信じている(筆者の学位論文は人工知能である)。

 やはり「頭がいい」というのは論理的な思考ができるということだろう。それも、単に論理的なだけではなく、状況を分析して、適切な応答ができる技術が重要だ

 たとえば、SEが看護士と合コンしたとしよう。SEというのは医療界では「石けん浣腸」のことだから、自己紹介で看護士が笑ってしまうかもしれない。ちなみにGEはグリセリン浣腸なので、ゼネラルエレクトリック(GE)社のSEは結構大変だ。さて、こういう場合どうしたらいいか。「SEというのはシステムエンジニアの略で…」などと言うのは論理的だが野暮。怒るのは論外。ここはひとつ、気の利いたジョークを飛ばしたいところだ。どんなジョークかは宿題にする(ここで簡単に披露できるくらいなら筆者ももっともてていたはずだ)。ついでに忠告しておくと、夜勤明けの看護士とは合コンしないこと。テンションが上がっていて、こちらがついて行けない。

●アキバ系の復権

 「電車男」のヒット以来、「おたく」が「アキバ系」と名を変えて復権しているらしい。ご存じとは思うが、アキバ系とは「秋葉原系」の略で、秋葉原を中心とするコンピュータやアニメ、ゲームなどの極端なマニアを指す。そういえば、秋葉原電気街に隣接して交通博物館もあるので、きっと鉄道マニアも生息しているに違いない。

 筆者を含め、IT業界、特に最近「IT Hero」と呼ばれるようなエンジニアにはアキバ系上がり(または現役アキバ系)が多いので、喜んでいる人もいるだろう(現代英語ではHeroは男女問わず使う)。もっとも、傾向としてそうであっても、アキバ系の「あなた」がもてるわけではないので勘違いはしないように(自分については論理的な思考ができない人がなぜか多い)。

 意外なようだが、本来「おたく」というのは話題の豊富な人が多い。自分の趣味に少しでも関係あれば、とことん追求するタイプが多いからだろう。アキバ系ではないが、筆者の写真仲間に「ネコとつくものは何でも好き」という人がいる。「この間『ネコ商店』という看板に惹かれたが、よく見たら『カネコ(金子)商店』だった」と笑っていた。先日は台湾の「猫喫茶」なるものを訪問したらしい。すべてのおたくは似たようなものだろう。

 最近は「3高」つまり「高学歴、高身長、高収入」に代わって、「3低」が結婚相手として人気なのだそうである。「低姿勢、低依存、低リスク」だという。そもそも「おたく」というのは、初対面の人に「お宅は…」と話しかけたのが語源である。名前は分からないし、「あなた」では少しきつい。「君」ではキザだ。こういう場合に使うのが「お宅」である。初対面の相手を対等か、自分よりも上として話しかける距離感はまさに「低姿勢」である。また「おたく」は自分の趣味領域を侵害されない限り、文句は言わない。たいていの人がひとりで生きていく力を身につけている。食生活の乱れはかなりあるようだが、自分のために何かしてくれない、と怒るタイプは少ない(邪魔されると怒る人は多い)。もしかしたら「低リスク」には疑問を持つ人がいるかもしれない。確かにIT業界は倒産、買収、合併が日常茶飯事である。筆者の知人など、希望退職に3回応募して(つまり3回転職し)、その後気付いたら最後の会社が最初の会社に買収されて元に戻ったくらいだ。しかし、構造不況とはいえ仕事は今のところ一応ある。気が弱い人が多いので、犯罪に関与する率も少ないのではないかと思う。まれに忌まわしい事件も起きるが、それは本当に例外中の例外であると思いたい。後輩には娘に「詩織」(人気美少女ゲーム「ときめきメモリアル」の登場人物)と名付けた奴もいるが、夫婦そろっておたくだったせいである。これはこれで微笑ましい。

●問題は何か

 ところが、回りを見渡すと、アキバ系の人は敬遠されることが多い。何が問題なのだろうか。筆者が思うに、それはコミュニケーションスキルの問題ではないかと思う。実は、上野千鶴子氏は小谷野氏に対して「もてないのはコミュニケーションスキルに乏しいからだ」と言ったという。小谷野氏は「帰ってきたもてない男」で、この指摘が当を得ていないと反論しているし、実際上野氏の意見はかなり乱暴である。ただ、筆者は、コミュニケーションスキルが「もてる」ための最低条件ではあると思う。

 具体的には何か。まずしなければならないことは「人の話を聞く」ということである。次に「自分の話は早く終わらせる」ということである。また「相手が自分の振った話題に興味を示さなければ、別の話をする」ことも重要だ。「人の話をさえぎって、自分が話をしない」ように注意する必要もある。

 これだけ聞くと「もてるもてない以前に、人間としてのコミュニケーションの問題ではないか」と思うだろう。実際そうである。もちろん、みんながみんなそうではないが、自分の趣味の話をはじめると止まらない人は結構多い。ということで、今回はもう1冊、筆者の同僚が書いた本を紹介しておこう。田中淳子著「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)である。

●IT業界で求められるスキル

IT業界にはさまざまな職種がある。最近の人気職はコンサルタントとアーキテクトらしい。どちらにしても、顧客の抱える問題や要求を形に変えるのが仕事である。そのため、作業の大半は顧客とのコミュニケーションが占める。最近、人気急下降中のプロジェクトマネージャの仕事もコミュニケーションが大部分を占める。

 コンピュータに没頭し、社会的なつながりが希薄な人、あるいはオンラインでのつながりしかない人も中にはいる。オンラインコミュニケーションもいいのだが、どうも攻撃的になりやすい傾向にあるので注意したい。オンラインで知り合った人でも、直接会う機会があれば、ぜひ活用したい。

 コンピュータは人の生活を豊かにするための道具である。ITは、コンピュータを利用する技術であるから、人とのコミュニケーションが欠かせない。そして、コミュニケーションスキルは、顔や身体、あるいは運動能力と違って、簡単に向上する。アキバ系あるいはその予備軍は、もてる素質を持っているのだから、ぜひコミュニケーションスキルを磨いてほしい。

がんばれ、アキバ系

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2006年8月14日 (月)

女性技術者

8月29日からは、マイクロソフト最大の技術カンファレンス。
そのTechEdの新企画「Women in Technology」。
米国では1、2年前からやっているはず。
(北欧と比べれば)米国の女性の地位はまだまだ低いようですが、日本はもっと低い。
というわけで、こういうイベントが成功するといいと思っています。

そう考えていたら、情報処理学会もこんな企画が。

■ITダイバーシティフォーラム
「IT分野で活躍する女性技術者・研究者と語ろう」講演・パネル討論会

開催日時:平成18年9月7日(木)18:30-20:30
開催会場:JJK会館 7F会議室(東京都中央区築地4-1-14)

申込/詳細 http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/forum/it-diversity.html

IEEE Compute Society会長デボラ・クーパー氏が来日と書いてありました。
情報処理学会のWebサイトでは「デボラ・クーパー女史」となってますが、「女史」という言葉自体が欠性対立であり、それ自体が差別する意図がなくても、潜在的な差別につながりやすい言葉とされています。

女性が来ることを言いたいのは分かるのですが、もう少し工夫があってもいいのではないでしょうか。

情報処理学会には連絡しておきました。

「デボラ・クーパー氏をお招きし、女性としての視点から...」という感じで十分趣旨は伝わると思います。

8/17追記
情報処理学会から連絡があり、表現を修正したということです。

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2006年7月17日 (月)

男女共同参画白書2006

男女共同参画白書より

http://www.gender.go.jp/whitepaper/h18/web/danjyo/html/honpen/chap02_06_02.html
「育児休業・介護休業制度,子の看護休暇制度,時間外労働の制限の制度,深夜業の制限の制度,勤務時間短縮等の措置」

まあ、それも大事なんですが、労働力のM字曲線を肯定する感じがする。

大事なのは、育児休業をサポートすることではなくて、保育所の増加、夜間保育の強化、病児保育のサポートだと思うのですよ。

あとの方で「保育所の送迎」とか「どもの突発的な病気の際の預かりや,急な残業,出張の際の宿泊を伴う預かり等,子育て中の労働者の育児等に係る緊急のニーズに対応」とか、書いてあるけど、オマケのような気がしてならない。

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2006年7月13日 (木)

「IT嫌いはまだ早い」2005年9月号

月刊「Windows Server World」(http://www.windows-world.jp/) 連載の「IT嫌いはまだ早い」より

編集作業が入る前の原稿なので、出版されたものとはタイトルを含め、内容が若干違います。

●米国TechEd日記
6月初旬に、フロリダ州オーランドで開かれたMicrosoft TechEd(テック・エド)に参加してきた。TechEdはマイクロソフトの開催する技術カンファレンスで最大のものである。今年は約13,000人が参加したそうだ。今月は、このTechEdの状況をお伝えする。なおTechEdでどんな技術が議論されたのかはここでは触れない。それよりも、TechEdを通してIT業界で生き抜く方法をお伝えしたい。

●TechEdとは
TechEdで中心となるのは「今すぐ使える技術」または「もうすぐ使える技術」である。対象者は開発者とIT管理者(ITプロフェッショナル)。従来ITプロフェッショナルの比重はそれほど高くなかったが、ここ1、2年はかなり重視されている。マイクロソフトCEOスティーブ・バルマーの基調講演も、以前は「我々は開発者を大事にしている」と言っていたのが「開発者とITプロフェッショナルを大切に思っている」と変わっている。
特に今年のテーマは「ITヒーロー」ということで、お土産にもらった野球帽に「IT Hero」と書いてあったし、Tシャツの袖にも「IT Hero」と書いてあった。ただし、胸には「No, I will not fix your computer」(いいえ、私はあなたのパソコンを直せません)と書いてあった。システム管理者は、自分が管理しているコンピュータを修復することはできても「あなたが」使っているコンピュータを直せるとは限らない。どんな設定になっているか分からないからだ。いい言葉なので手帳にメモした。
今年のTechEdは過去最高の人数だそうで、期間中117,000本のミネラルウォータ、15,600本のアイスクリーム、1800Kgのスナック菓子、27,000個の卵、36,000Kgの鶏肉、52,000杯のジュースが消費されたという。よく分からないがかなりの数字である。

●TechEdで「タダ飯」を食う
TechEdに限らず、米国開催のカンファレンスでは通常食事と飲み物、そしておやつが無償で提供される。食事は朝食と昼食が提供される上、夜は何回かパーティが開催されるので、夕食代も浮くことがある。しかも、朝8時半から夜6時までセッションがあるから、まじめに出席するとお金を使う暇は全くない。
初日は「Attendee Party(参加者パーティ)」で、スポンサー展示会場での立食パーティがある。ここ2、3年は展示会場も小さく参加企業も縮小傾向にあったが、今年は多くの企業がブースを出していた。米国の景気回復も本物のようである。もっとも以前紹介したとおり、IT業界の成長率は相対的にはそれほど高くないそうだ。
最終日の前日は、ユニバーサルスタジオでのパーティである。現在、オーランドのユニバーサルスタジオには2つのテーマパークがある。そのうち1つがTechEd参加者のためだけに貸し切られた。いくらTechEdの参加者が過去最高だといっても、所詮1万数千人である。別料金を払うと家族参加もできたのだが、それでもせいぜい2万人だろう。そのため、長くても30分待ちですべてのアトラクションを楽しめた。食べ物や飲み物の屋台も出ており、これらもすべて無料である。もちろん、これらの費用は参加費(1人1,995ドルだが早期割引だと約1,695ドル)で補填されるのだが、どう考えても赤字である。マイクロソフト様、ありがとう。
ちなみに日本でも同じイベントが8月にパシフィコ横浜で開催される。こちらもパーティが開催されるが、隣接の遊園地を貸し切りというわけにはいかないようである。

●TechEdで英語をしゃべる
ところで、パーティには「おしゃべり」がつきものである。「パーティ・トーク」という言葉があるくらいで、初めて会った人でも世間話を続けるのだ。筆者もそうだが、日本人はこのパーティ・トークが苦手である。どこから来たの? 誰と来たの? どこに勤めているの? 興味のある分野は何? 家族は? というのが定番の会話だが、英語力の問題もあってなかなか話が続かない。パーティ・トークに比べれば技術的な議論の方がずっと簡単である。もう少し英語力を付けようと、英会話学校にも通っているが大して変化はない。知人に言わせれば「根性のない人はどんな方法でも駄目」ということだ。ちなみにこの知人、日本で生まれ日本で育ったが「普通に」英語をしゃべれる。悔しいが言い返せない。
日本人以外に、英語が苦手な国民といえば韓国だそうだ。日本と韓国の共通点は、大学進学率が高いことである。韓国の大学進学率は約80%(*)、日本は50%程度(**)である (いずれも短大含む)。中国が約15%、香港が20%というから、相当な差がある。そもそも日本と韓国以外では、高等教育の授業の多くが英語なのだそうである。高等教育が大衆化していないため、英語の授業が成り立つのだろう。ただし、母国語での高等教育は、エリートを生まない代わりに平均レベルを押し上げる。インドのように、一部のエリートが国を支えるのと、日本や韓国のような状況のどちらがよいかというのは一概には言えない。
優秀な経営者やエンジニアは、こうしたパーティで人脈を広げるようだ。アスキー創業者の西和彦氏は、飛行機で偶然隣に乗り合わせた稲森和夫氏(京セラ)の会話の中で新しいポータブルPCを提案し、実現させたらしい。製品の発売はNECから行われPC-8201という型番となった。米国ではTandy 100という名前でTandy社から発売され、一時は記者必携のツールとなった。筆者にはちょっと真似できないが、それくらいの意気込みで人としゃべりたいものだ。ちなみに、PC-8201のプロジェクトはビル・ゲイツが実際にプログラムを書いた最後の製品だという。このプロジェクトで、自分よりも優秀なプログラマを見て引退を決意したとか。

*外務省「諸外国の主要学校情報」http://www.joes.or.jp/world_school/
**文部科学省「平成16年度学校基本調査速報」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/04073001/

●TechEdに見る女性比率
TechEdで、以前から気になっているのは女性の数である。数少ない筆者の経験では、米国の技術カンファレンスやセミナーの出席者で、女性の比率は2割から3割である。技術分野にもよるが、日本の場合は1割に満たないような印象があるので、米国での女性比率はかなり高い。
ところが、講師の割合となると話が変わる。2005年米国TechEdのセッションスピーカで、Webに登録されている人は518人いた。このうち、女性(と思われる名前)は数名であった。実際、筆者が参加した過去のセッションで女性のスピーカは皆無である。一方、2004年日本のTechEdのセッションスピーカは78名中10名と1割を軽く超える。講師に限定すれば男女平等は日本の方が進んでいるのである。いうまでもなく、社会的には米国の方が「男女平等」がずっと浸透している。しかし、分野を限定すれば、日本の方が進んでいることもあるのだ。
女性といえば、日本の場合、結婚して姓を変える人が多い。ところが、姓を変えることで、それまでの知名度が失われてしまうこともある。荒井由実(松任谷由実)のように、継続して活躍できる人もいるが、少数派だろう。同じ分野で継続して活躍したいのであれば、同じ姓を使い続けることをおすすめする。逆に、姓を変えることで自分の専門分野を変えてしまう方法もある。ある程度知名度が出てしまった人は同じ仕事しか来ないことが多い。姓を変えることで継続性を断ち切り、新しい分野に挑戦するのも悪くないと思う。
筆者の知人は圧倒的に夫婦別姓の人が多い。事実婚の人もいれば通称使用の人もいる。あまり知られていないが、相手先の招待状があれば旧姓(通称)でパスポートを取得することも可能である。ところがIT業界の知人にはなぜか夫婦別姓が極めて少ない。たまにいても、転職と同時に夫婦同姓にしてしまう。同じように活躍していても「そういえば、昔活躍していたXXXさんは最近見かけないな」「この仕事はXXXさんに依頼したいのだけど最近見ないのは引退したのかな」などと思われては損である。昔のように、同じ会社に在籍し続けるのであればいいだろうが、現在では自分の名前が失われるのは大きな損失だと筆者は思うのであるが、男女を問わず賛同者は少ない。残念である。

●海外に行くこと
TechEdに限らず、海外に行くことはそれだけで価値がある。いくら通信技術が発達しても、自分で体験しなければ分からないことは多い。技術情報の入手に国境はない。しかし、生活には国境はある。たとえば最近のWindows Serverのテーマである「ブランチオフィス(支店)」について考えてみる。明確には記されていないが、どうも米国で「ブランチオフィス」と言うと、全米に広がった数百以上の拠点を指すようなのだ。せいぜい10や20だと思ったら大間違いである。こういう言葉のニュアンスは、生の言葉を聞くのが一番である。
英語はどうも苦手で、という人も多いと思うが、重要なことはまず実行することである。江戸末期から明治の日本人のことを考えてみて欲しい。当時の武士階級では漢文の知識が普及していたため、中国の読み書きはだいたいできたのではないかと思う。しかし、ヨーロッパについてはオランダ語が一部に普及していただけで英語に精通した人はほとんどいなかったはずである。それでも、単身留学し成果を上げて帰ってきたのだ。
参考までに筆者の英語力を披露しよう。数年前の結果だがTOEFL 490点、TOEIC 560点である。これだと対面である程度の意思疎通ができるものの、一方的にしゃべられたり、複雑な話をされたりすると理解できない。それでも技術カンファレンスに出席し、ある程度の内容を理解し、日本で伝えられるのは、専門領域に精通しているからである。多くのエンジニアは、自分の専門分野技術についての英文ドキュメントを読んでいると思う。もしそうなら、海外のカンファレンスに出席しても大丈夫だ。きっと得るものがある。
ところで自分の英語力が貧弱であることを伝えるのに「My English is not good」「My English is bad」「My English is poor」などという言い方もできるが、少々直接的なように思える。特に他人に対して「poor」というのはかなりばかにしているし「英語のドキュメントも読めない」という感じになってしまう。もう少し婉曲な言い方も覚えておこう。これだと他人に対しても使うことができる。

My English ability is (very) limited.

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2006年5月27日 (土)

「IT嫌いはまだ早い」2005年7月号

●コンピュータを欲しがる人はいない

コンピュータを買うのは何のためか。これは難しい質問である。筆者は「パソコンを買おうと思うのだけど何がいいと思う?」とよく聞かれる。そんなときは、まず「何に使いたい?」と尋ねる。インターネットが普及する前は「いろいろ」「特にない」という答えが多かった。この場合、筆者のアドバイスは「買わない方がよい」だ。では会社で買う場合はどうだろう。今月は少し目先を変えてビジネスの話をしてみよう。

●「メールとインターネットをやりたいのですが」

冒頭の質問だが、最近は「メールやインターネットをやりたい」という返事が多い。「そもそもインターネットはTCP/IPによる公開ネットワークであり、電子メールはSMTPPOP3を使った」などと技術的に正しいことを言っても意味がない。「SMTPってアイドルの名前ですか?」と聞かれるのがオチである(それはSMAP)。普通の人は、3文字略語も4文字略語も知らないし、知りたいとも思わない。正確だろうが何だろうが「インターネット」というのはWebサイトのことであると浸透してしまったという事実は受け入れないといけない。同様に、「ウィルス」は感染しなくても悪意を持ったプログラムの総称であるし、「ホームページ」はトップページのことではなくWebサイト全体のことである。そういう意味で浸透したのだからしょうがない。

とは言え、筆者自身がWebサイトの意味でメール「インターネット」という言葉を使うには抵抗がある。「電子メールとWebを見るのに使いたいんですね」と言い直してから「他に何かありますか」とさらに聞く。「年賀状の印刷」が次に多い答えである。筆者は学生時代、PCショップ兼文房具屋でアルバイトをしていたが、年末ともなれば30分に1台「プリントゴッコ」が入れていた。インクに至っては平均すると1分に1本以上売れていたと思う。年賀状は日本人にとって一大イベントなのである。

「メール、Web、年賀状」これこそが、日本人の平均家庭におけるPCの利用目的ではないだろうか。しかし、逆に考えると、この3つができればPCはいらない。メールもWebも携帯電話で十分と考える人もいるだろうし、年賀状は印刷屋で作った方が簡単だと言う人もいるだろう。この場合、携帯電話の機種選定と安くて美しい印刷屋を選定すればよい。

このように「何がしたいか」という要求を満たす提案を「ソリューション」という。そして要求を分析し提案に結びつける人を「コンサルタント」という。買い物の相談を受ける人はコンサルタントの仕事をし、ソリューションの提案をしているのである。Windows Sever Worldの人気連載「暗黒のシステムインテグレーション」には、「使えないソリューション」や「怪しげなコンサルタント」が毎回登場するが、本来コンピュータには欠かせない概念なのだ。

●「お客様はコンピュータが欲しいわけではない」

「お客様はコンピュータが欲しいわけではない」IT業界に就職して最初に聞かされる逆説ではないかと思う。特に営業系の人には徹底して教えられる。もし、誰からも教えてもらえなかったら、その会社は黙っていても製品が売れる会社か、常識として浸透している会社か、もうすぐつぶれる会社かのどれかである。

お客様は、コンピュータを使って業務を効率化したいのであり、コンピュータはその手段である。これは、頭では分かっていてもなかなか実践できない。多くのメモリが搭載できます。高速なCPUです。障害が起こっても自動的に切り替えます。そういう言葉は経営者には響かない。月末の残業代を50%カットできます。月末にしか集計していなかったデータを、毎日集計します。これが経営者の求める言葉である。もし、コンピュータなしにできるのであれば、その方がいいはずだ。

●優秀なエンジニアが陥りがちなワナ

IT業界に就職した人には、コンピュータが好きな人が多いのではないかと思う。特に、IT業界は構造的な不況を抱えており、将来の展望は決して明るいとは言えない。孫引きで恐縮だが、米国InformationWeek社のインタビュー調査によると、自分の職が安全と思っているIT技術者は3割から4割、ほとんどのIT技術者は自分の子どもたちにIT業界への就職を勧めないと答えているそうである(*)。そんな状況でIT業界を選んだのは、コンピュータに対して何か惹かれるものがあったはずだ。

実は、これこそがIT業界の問題なのである。中にはコンピュータのハードウェアやソフトウェアには興味がなく経営戦略に興味を持ったという人もいるだろう。コンサルタントを目指す人にはそういう人も多いようだ。しかし、そんな人でも、コンピュータの勉強をするうちに、コンピュータが好きになる人は多い。人によって感じ方は違うだろうが、筆者はそうだったし、先月登場した筆者の友人(PC-8001の所有者)もそうだ。友人は、もともと機械工学を専攻していたが、中退してIT系の会社に就職した。筆者の大学時代の指導教授もそうだ。何でも、大学の計算機導入プロジェクトに任命されてからとりつかれたらしい。コンピュータは「ブール代数」という数学理論をもとに考案されたので、なんか関係があるだろう、と大学側は考えたという。これは、自動車選定プロジェクトに物理学者を呼んでくるようなもので、ちょっと無理があるようにも思うが、本当のことらしい。おかげで筆者の学位論文はコンピュータ科学の1分野となった。

コンピュータが好きな人の何が問題か。それは「問題をコンピュータで解決しようとする」ことである。IT業界にいる以上、それは当然のことであるが、実は顧客は本当の要求を言っていないのかもしれない。

Windows関係のメーリングリストを見ていると「Windowsを定期的に再起動したいのですが、自動化するにはどうしたらよいでしょう」という質問がよく出る。まさに「顧客の要求」である。SHUTDOWNコマンドをタスクスケジューラに登録すれば自動化できます。なるほど、正解である、一応は。しかし、考えなければならないのは「そもそも再起動する必要があるのか」ということである。実際、古いWindowsでは起動中にメモリを使い果たし、再起動が一番手軽だということもあった。しかし、今はそういうことはほとんど聞かない。顧客の作ったアプリケーションが問題を起こしていたとしても、そのアプリケーションを再起動すれば済むはずである。つまり、真の要求は「長期運用時に、メモリ不足でコンピュータの動作が不安定になることを回避したい」ということになる。

下手にSHUTDOWNコマンドやタスクスケジューラのことを知っているばかりに、一見正しい回答をしてしまう。これがワナである。

●マーケティング力を身につけよう

コンピュータは入力したデータを集計や分析して、どんな形にでも変更できる。「何でもできる」というのは「そのままでは何もできない」に等しい。「コンピュータ、ソフトなければただの箱」と昔から言われているが、ソフトウェアがあっても、その使い方や運用技術がないと成り立たない。「買ってきただけでは何もできない」という、世にもまれな商品なのである。

先に書いたように、顧客の要求を引き出すのはコンサルタントの仕事である。しかし、自社の製品を売り込むにはマーケティングも重要である。通常、コンサルタントは自社の製品を持たず、顧客の要求に合った製品を提案する。最近は、メーカー系コンサルタントという人たちもいて話がややこしいが、本来は分析と提案がコンサルタントの仕事である。

一方で、自社の状況や製品の内容を分析し、市場に対して適切な製品を最適な戦略で投入することを「マーケティング」という。特にIT業界の場合は、販売する側に高いコンサルティング力が求められる。同時に製造する側には、多くの顧客が要望する機能を備えた製品を作るためマーケティング力が求められる。

冒頭の「メールやインターネットをやりたいという人に何を勧めるか」に戻ろう。みなさんならどう答えるだろうか。筆者の答えは「気に入ったデザインのものを買え」である。メールとWebはほとんどの人がPC購入の動機としてあげる。そのためパーツ業者、ソフトウェア業者、そしてPCを組み上げる業者のすべてがメールとWeb機能を重視している。結局、PCはデザインくらいしか差別化要因はないのである。

実はIT業界に限らず「顧客の要求を正しく把握する」というのはマーケティングの基礎でもあるそうだ。最近見かけたフレーズで気に入っているものを紹介しよう。

ドリルを買いに来た人は穴が欲しい。

(*)情報処理学会学会誌20046月号「アメリカITまわりの話題:オフショア・アウトソーシング」(藤崎哲之助)

月刊「Windows Server World」(http://www.windows-world.jp/) 連載の「IT嫌いはまだ早い」より

編集作業が入る前の原稿なので、出版されたものとはタイトルを含め、内容が若干違います。

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2006年5月24日 (水)

PCは個人が自由に使えるコンピュータである

ITガバナンスとか、セキュリティ管理とか、リスク管理とか、そんなものはどうでもよくって、とにかく、自宅でも会社でも、自分が好きに使えるコンピュータが欲しいんですよ。

って、言ってみたい。

『日本における「enterprise2.0」がむなしい理由 』
とか、
『ホワイトリストとパーソナルコンピューティングのあるべき姿』
とか
『グループ・ポリシーの目的,勘違いしてはいませんか?』
とか(これは拙著)読んで思うのであった。

そう思って、「100年Windows」に『PCはアナーキーな道具(だった)』を書いてみた。
明日公開予定だと思ったら深夜零時なのでもう公開されていた。

ところで、拙著は「参考になった」が28%。
当然すぎて参考にならなかったのか、それとも「自由に使えるPC」という発想が受け入れられないのか。

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2006年4月14日 (金)

フィッシング110番

フィッシングについての警察の取り組み

「怪しい場合は犯罪でなくても取り締まる」そう読み取れるんですが...

http://www.npa.go.jp/cyber/policy/phishing/main.htm

2 警察の取組み
 (1) 基本方針
 今後、増加が懸念されるフィッシング詐欺については、これを詐欺に至らない段階(偽のホームページの開設等)で、防止、検挙することが何よりも重要。
 警察としては、関係機関・団体と連携し、詐欺に至らないフィッシング行為の防止を図るとともに、フィッシング行為自体を業務妨害罪、著作権法(複製権侵害、公衆送信権侵害等)違反等で検挙するよう努める。

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2006年4月 4日 (火)

「IT嫌いはまだ早い」2005年5月号

IT技術を修得するには

●新人研修を終えて

4月に入社した新入社員も、5月になれば新人研修を終えて職場に配属されているかもしれない。現代のITプロフェッショナルに必要とされる知識量は、新人研修で習う程度でカバーできるわけもなく、これからが本格的な勉強の始まりというわけだ。筆者は、職業柄、学習方法に関するアドバイスを求められることも多い。そんなとき、プロトレマイオス1世に質問されたユークリッドの気分もこんなだっただろうかと思う。ユークリッドは、当時のエジプト王プトレマイオスに、幾何学を学ぶいい方法を尋ねられてこう言ったという「幾何学に王道なし」。幾何学でもIT技術でも、楽な修得方法はない。IT技術であれば、マニュアルを読み、実際に操作し、検証する、それだけである。

RTFM

RTFM」は「マニュアルを読め!」という意味の罵声語である。英語圏のIT分野、と言うよりは「ハッカー界」の用語である。ここでいう「ハッカー」というのは、一般に言われている意味ではなく、本来の意味、つまり「コンピュータが何より好きで、しかも、高い技能を持った人」という意味の尊称である。駆け出しハッカーは、悪気のないちょっとしたいたずらをしばしば仕掛けるが、本来は決して犯罪者ではないので誤解しないで欲しい。もっとも、最初は悪気がなくても、映画「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーのように暗黒面に身を投じる人間もいる。ダース・ベイダーは元々平和と正義を守る騎士、ジェダイの候補であった。裏切ったダース・ベイダーをジェダイと呼べないのと同様、暗黒面に落ちた人は、もはや「ハッカー」ではない。にもかかわらず、日本を含む世界中のマスコミが「ハッカー」=「犯罪者」という意味で使っているのは残念である。

話を戻そう。筆者が以前、香港でセミナーを受講したとき、講師が「RTFMを知っているか」と聞いた。もちろんクラスの大半が知っていた。「では何の略か言ってみよう」と言われ「Read the F…」と口ごもっていたら、講師は「Read the Formal Manual (正式なマニュアルを読め)」といい、爆笑を誘っていた。実際には、Formalではなく、もっと下品な4文字単語である。「くそったれのマニュアルでも、ちゃんと読みやがれ」くらいの意味であろうか(http://www.hack.gr/jargon/html/lexicon.html)

日経コンピュータ誌200489日号では、馬場史郎氏のコラムに、マニュアルを読むことの重要性が説かれていた。「学習するときは参考書でも良いが、復習するときはマニュアルを読め」ということだ。馬場史郎氏は「SEを極める50の鉄則」など、SEの心構えを書いた書籍がベストセラーになり、業界ではちょっとした有名人である(そして筆者の元上司である)。偉そうなことを書いているが、直接会うと、気さくなおじいちゃんという感じで著書とのギャップが激しい。

自慢するわけではないが、筆者も若い頃はマニュアルを通読したものである。また、新人研修を終えて最初に与えられた課題は、VMSというオペレーティングシステムのマニュアルを要約し、レポートすることであった(20年近く前の話だ)。その後もWindows NT 3.1のマニュアルは通読したしWindows NT 3.5のリソースキットも全部読んだ。電車の中で読んでいたら、うとうとして、自分の足の上に本を落とし、痛い思いをしたこともある。これは真似しないで欲しい。

マニュアルなど、何度読んでも全部が頭に入るわけはない。しかし、何がどこに書いてあるのかは記憶にかすかに残る。そして、その記憶はトラブルシューティング能力や情報収集能力の差となって現れる。確かあのへんに書いてあった、というおぼろげな記憶は非常に重要なのである。

本誌の読者の多くはWindowsを使っていると思う。Windowsの参考書は世の中にあふれており選ぶのに困るくらいだ。しかし、参考書だけを読んで分かったつもりになっていないだろうか。参考書やセミナーのテキストというのは、機能のすべてが網羅されているわけではない。ある目的を実現するための必要な項目だけが記述されているだけだ。そして、良い参考書ほど、シナリオに沿わない項目は大幅にカットされる傾向にある。つまり、参考書だけを読んでいると、参考書の想定する状況しか理解できないということになってしまう。

最初に学習する時に、定評のある教科書を読むことは悪くない。いや、ぜひお勧めしたい。Windows Serverであれば「Windows Server 2003完全技術解説」が、筆者の信じる最良の書籍である。自分で書いたからというのが最大の理由だが、それだけではない。書名通り、基本的な機能が網羅されているからだ。筆者は、他にも何冊か本を書いているが、プロフェッショナルを目指す人にお勧めできるのはこれ1冊である。

●マニュアルはどこにある?

そういうわけで、概要を把握したら、次のステップはマニュアルを読むことである。ところが、である。不幸なことに、現在はそのマニュアルを読むことが非常に難しい。ほとんどのMicrosoft製品にはマニュアルが付属しないか、付属しても、俗に “Getting Started” と呼ばれる最小マニュアルしか付属しないからである。オンラインヘルプは検索機能に優れているが、通読には向かない。IT業界に入って今日まで、オンラインヘルプしか知らない人は「マニュアルを通読する」という発想そのものが生まれないだろう。

開発製品では、紙のマニュアルが別売りのこともある。中身はオンライン版と同じなので、買わない人も多いようだが、初心者であればぜひ買って通読すべきだ。一字一句詳細に読む必要はない。何がどこに書いてあるかくらいが頭に入れば十分である。きっと役に立つ。

ただし、紙のマニュアルを全部収めるには最低でも本棚1列は必要になるだろう。Windowsのマニュアルはどんどん量が増えている。これからもっと増えるはずだ。汎用機のマニュアルは、OSだけで本棚1本分が常識だった。Windowsだってきっとそうなる。さすがに、本棚1本のマニュアルを通読しろとは言えない。しかし、それでも、分からないことは参考書ではなくマニュアルを引けという主張は変わらない。どうか積極的にマニュアルを読んで欲しい。

●コミュニティに参加しよう

参考書で勉強し、オンラインヘルプを読んでも分からないことはどうするか。ひとつの方法は実際に試すことである。ただし、試したからといって、それが正しい動作かどうかは分からない。正しいと思っていた動作がバグだったということもあるし、検証方法に間違いがあるかもしれない。また、そもそも検証環境が用意できないないかもしれない。VMWareVirtual PCのような仮想PC環境を使うのも良いが、使用しているPCの性能の問題で使えない人もいるだろう。

そんなときは、メーリングリストなどを含むコミュニティに参加してみよう。マイクロソフト製品に関してはhttp://www.microsoft.com/japan/communities/ に、どんなコミュニティがあるかが紹介されている。マイクロソフト社が直接運営に口を出していないものもたくさんある。

技術系のメーリングリストなどでは、基礎的な質問に対して「過去ログを読め」という応答がよくある。「マニュアルを読め」と言われることも多い。実は、冒頭で紹介したRTFMが使われるのはこういう文脈である。もっとも、筆者は「過去ログを読め」という言い方は嫌いである。なぜなら「ログ(記録・日誌)」は常に過去のものであり「未来ログ」は原理的に存在しないからである。例外は、2000年頃のTBSテレビ番組内の企画「未来日記」くらいであろう。

人によって意見は違うようだが、筆者は同じ質問が何度も行われることは問題ないと思う。「過去ログを読め」という言葉は、同じ質問を否定しているが、それは適切なコミュニティの態度ではない。ただし、「過去ログを読め」と言う人の気持ちも分からないではない。毎月、同じ質問に何度も答えていれば嫌にもなるというものだ。

健全なコミュニティは、同じ質問を排除しない。その代わり、同じ質問に答える人が毎回変化する。先週、自分の質問に答えてもらったら、今週出た同じ質問には自分が答えるべきである。こうして、質問自体は同じでも、答える人が、そして質問する人がどんどん変わっていくのがコミュニティの理想である。

ただし、コミュニティの意義は、「質問に答えてくれる場」を提供してくれることではない。コミュニティは、同じ問題を抱える者同士の交流の場であり、誰かが一方的に質問したり答えたりする場ではないのだ。コミュニティ活動に参加することは、社会で認められるエンジニアへの第一歩である。恐れずにチャレンジして欲しい。

どのコミュニティにも「リーダー」と呼ばれる人がいる。マナーを守らない投稿は注意されるだろう。しかし、初心者はマナーが分からないから初心者なのである。マナー違反を指摘さされたら素直に受け入れ謝ればよい。コミュニティの世界は「ごめんで済むから警察はいらない」のである。今ではコミュニティリーダーとして活躍している人の中にも、最初はずいぶんとひどい内容の質問をしていた人もいる。コミュニケーションは慣れればスムーズになるし、技術スキルは勉強すればそれだけ向上する。重要なことは「いつか、他の人の役に立てるようになろう」という気持ちである。この気持ちは自分自身を確実に成長させる。

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追記

出版された記事では、この回以降、最後に「決め台詞」が入る。

編集担当の方に、

横山さんはコミュニティビギナーをどのように見ていらっしゃいますか。最後の4行のアドバイス、もう少し膨らませてくださいませ

と言われて加筆したのが最初である。

記念すべき修正なので、今回は例外的に加筆部分も追加。

決め台詞そのものは、自分のアイデアだが「毎回これで行きましょう」と言われたときはめまいがした。

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システム的なミスをしてしまうこともあるだろう。たとえば空のメールを送ってしまったとか、ヘルプ用のメールアドレスと投稿用のメールアドレスを間違え、HELP1行だけ書いたメールを送ってしまったとか、そういう失敗は筆者にもある。妙なメールが来たら筆者はこう思うことにしている。

「コミュニティの世界にようこそ」

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